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夢みるように眠りたい


■公開:1986年
■制作:映像探偵社
■監督:林海象
■助監:
■脚本:林海象
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:深水藤子
■備考:


 この作品には昔の銀幕スタアを登用して見る方の琴線に触れるのが大好き、な大林宣彦がスタッフに参加している。

 時代は昭和初期、舞台は東京。ただし、古い日本映画を見慣れていると、そこかしこにヘンな時代モノが見えてくる。そんな時代考証なんかはとりあえずどうでも良いらしい。昭和初期と大正時代の二段階レトロはギミックに過ぎないからだ。この映画はセミサイレントである。生身の登場人物の台詞はすべて字幕。限定されたSEとBGM、それにテープに記録された、過去の人間の肉声だけが登場する「音」。モノクロに、映画の二番館専用のヨタフィルムみたいな味付けをした、懐古趣味の凝った写真。

 オープニングは、さらに昔の「大正時代の映画フィルム」(劇中劇ならぬ、映画中映画?)。ただし、ラストシーンは無い、それがこれから起こる「事件」を解決する鍵なのだ。

 貧乏探偵・佐野史郎はある日、誘拐事件の捜査を依頼される。依頼主は誘拐された娘・佳村萌の「母親」。犯人の要求に応じて、取り引き現場に身代金を届けることになった佐野は、地球コマを売っている大道香具師の「Mパテー商会」(大泉滉あがた森魚)に妨害されて、金だけを奪われる。さらに身代金を上乗せして来た犯人。依頼主の使いとしてやって来た初老の男・吉田義夫は、佐野にさらなる探索を要求した。

 浅草の花やしき遊園地、仁丹塔、見世物小屋、ノスタルジックな幻想に囚われながら、右往左往する佐野と助手の小林(探偵の助手といえば「小林」と相場が決まっている)。佐野は不思議な映画フィルムと遭遇する。それは大正時代に制作された未完の作品「永遠の謎」というチャンバラ映画。撮影中に検閲にかかり、ラストシーンを残して制作が中断したらしい。佐野は全ての謎が依頼主の家にあると見破る。

 依頼主・深水藤子は「永遠の謎」のヒロインを演じていた女優であった。死期が近いことを知った彼女にとってただ一つ気掛かりだったのは、映画の結末。悪者に誘拐されたヒロインを、ヒーローは救い出すことができのかどうか。それを現実に置き換えて、佐野に実演させたのであった。佐野は事情を知らぬままに映画のプロットを忠実にたどり、ついに「謎」を解きヒロインを「救出」したのだった。彼女は「まるで夢を見るように眠ることにしましょう」と佐野に感謝しながら静かに息を引き取った。

 時代に翻弄された映画人、国策で「夢」を奪われる事がどれほど苦しく、くやしいものなのか。映画女優の執念を通して、そんな主張が見える。

 映画の中で「往年の名女優」を演じた深水藤子は本物の「戦前の名女優」。あの天才映画監督・山中貞雄と結婚を噂されながら、山中を戦争に取られたため叶わなかったというのは有名なエピソードである。すでに引退していた深水藤子を引っぱり出した心底は?この映画は山中貞雄に捧げられたオマージュである。

 そんなサイドストーリーを知ろうが知るまいが、作品全体から立ち上る映画への愛情がたまらなく心地よい一遍。

1998年01月31日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16