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日本誕生


■公開:1959年
■制作:東宝
■監督:稲垣浩
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:三船敏郎
■備考:


 復活する前の池袋文芸座ではよく面白い特集を組んだ。ある時、ホン作品と「日本沈没」が二本立てで上映されたがその特集のタイトルが「発見!日本の歴史」笑った。  

 古代の日本。世界がまだでき上がっていないころ、国造りを任されたイザナギ、イザナミ夫婦が子供をじゃんじゃん産む。彼等の末裔が小碓命・三船敏郎。彼は天皇命・中村雁治郎の先妻の子供で、後妻の弟たち・宝田明久保明を後継者にしようと企む重臣・東野英治郎に疎まれていた。女癖の悪い兄・伊豆肇を追放した三船は兄殺しの汚名を着せられて、危険なクマソ征伐を命ぜられるのだった。

 スサノオと日本武尊は三船の二役。神話時代の野放図な豪傑と、現世で政戦に苦悩する悲運な武人の二つのストーリーが並行して展開する。にぎやかでファンタジックなのは神々のシーン、壮絶な天変地異は現世、と二種類の特撮が堪能できる豪華版。まずはお馴染み「天の岩戸」のエピソード。勢ぞろいした俗っぽい神様たちが楽しい。

 オールスター映画なんだから、どれくらいオールスターだったかを書いておく。

 とても国産女優とは思えない神がかり的な天照大神・原節子、お笑い八百万の神々・榎本健一柳家金語楼有島一郎三木のり平、元祖裸の大将・小林桂樹、人類最初のストリップダンサーであるアメノウズメノミコト・乙羽信子。マジでトップレスかと思ったら肌色のサラシだった、ああびっくりした。ウズメノミコトの踊りをかぶりつきで鑑賞しているのが、とても神様とは思えない沢村いき雄(納得の配役)。

 天照大神が閉じこもった岩戸をあけるのが「力はあるが知恵は駄目だあ(本人の台詞より)」の手力男・朝汐太郎、よくも引っぱり出したもんだ、現役の大横綱を。あの超ブサイクな二代目(長岡)ではないよ、美男力士の誉の高い方先代よ、念のため。小太りでモタモタしている小林桂樹がちょっと「雷様コント」の高木ブーっぽかったのも付け足しておこう。

 豪華絢爛たる神代の大スター軍団。現世の戦に明け暮れる人間たちはどうか。クマソはアフロヘアーと口髭が、つのだひろ風の志村喬。野蛮な兄貴とは正反対の理性的な弟は鶴田浩二。三船の恋人、オトタチバナ姫には司葉子。三船の相談相手は叔母の田中絹代。慈悲深く、聡明なこの叔母の助けで三船は幾度もスランプを脱する。武尊の忠実な部下が三島耕、その恋人が逞しい山娘(こんなんばっか?)の水野久美。出世に目が眩んで三船を裏切り、あげく東野に殺される不実な家臣・上田吉二郎

 この壮大な叙事詩を完成したのは特殊効果の数々だと言ってよい。八岐大蛇とスサノオの対決。夜半の海に八本のかまくびが忽然と現われ、眼だけがらんらんと輝く。大蛇の群れが波をけたてて進んでくる映像は後年の怪獣プロレス映画にはない、禍禍しい凄味があって素晴しい。

 竜巻に翻弄される帆船軍団が、オトタチバナ姫の犠牲で海路が開けるところは、「十戒」よりも静々と、とてもメルヘンチックであった。そして何といっても圧巻は、殺された三船が白鳥(アニメーション)に変化して、火山を噴火させ、湖を溢れさせる災害シーン。追手の軍勢が溶岩流にジュッジュッと一人づつ丁寧に「焼かれる」描写は迫力満点。

 溶岩の上空を飛ぶ白鳥はちょっとラドン、入ってました。

 ただ一本調子で乱暴なだけかと思った日本武尊は、クマソ弟のように、戦いのない平和な高天原に憧れる心穏やかで繊細な人物に成長して行く。その慈悲深い心につけこまれて、結局は殺されるのだが、民衆の支持を得て明るい未来を予測させる。それを象徴するように、遥か雲海の彼方にある高天原へ一直線に飛んでいく白鳥の映像で映画は終わる。

 脳天気な暴れ者から高き理想に燃える崇高な人物まで、怪獣相手だろうが人間相手だろうが全身で戦い、不器用に恋の悩みに悶々とする。三船敏郎の守備範囲は無限であると、この映画を見て再認識させられることだろう。

1998年01月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16