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殿さま弥次喜多


■公開:1960年
■制作:東映
■監督:沢島忠
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:中村錦之助
■備考:


 尾州藩主・中村錦之助と紀州藩主・中村賀葎雄の兄弟コンビによる弥次喜多珍道中。将軍の後継者候補に指定された二人が、堅苦しい御殿生活を飛び出して、町人として諸国を漫遊する。本作品はシリーズ第3作で最終作。

 粗製濫造の誹りを受けた東映の量産時代劇。それでも今どきのテレビ時代劇(正月の12時間時代劇を含む)から見れば、はるかに立派な出来映えなのである。

 江戸に上る次期将軍候補の二人の殿様から独占インタビューを取ろうとスクープ合戦を繰り広げる瓦版屋たちの大騒ぎで幕を開ける。このハイテンションな出だしがイイ。大身であるにもかかわらず、逃亡癖のある二人の籠が、まるで荷物のように梱包されているってのもおかしい。ボディーガード役の田中春男千秋実も誠実で朴訥なキャラクターがひょうきんでよろしい。

 ゲストは美空ひばり、それに「ひばりを買うともれなくおまけに付いてくる」香山武彦(ひばり弟)、こちらも兄弟コンビ。

 このシリーズの特徴はやかましいくらいの賑やかさと、テンポの良さ。昔の日本映画はアクビが出るほどトロイからなー、などと思っている輩はこの映画を見るべし。ちょっとでも目を離すと、場所も人も全部とっちらかっているので観ているほうは大変である。会話のスピードも早い、早い。中村兄弟の江戸っ子会話は粋でキレ味抜群だ。それでいて何を言っているかちゃんと聞こえる、滑脱の良い台詞まわしとはコレだ。

 暗殺団に狙われた中村兄弟はひばりがいる瓦版屋に居候をする。錦之助はひばりと、賀葎雄は焼芋屋のおねえちゃん・丘さとみと恋仲になる。ところで、丘さとみを東映城の「お姫様女優」と言うのはいかがなものか。おきゃんな町娘や、ちょっと頭の足りない可愛い田舎娘はよく見たが、「お姫様」ってのはあまり記憶に無い。

 圧巻なのは正体がバレた二人を、暗殺団、両家の家臣、突撃取材の瓦版屋、およそ100人近い大集団が延々10分近く追っかけるシーン。出前の蕎麦屋軍団(若き日の汐路章を発見!)をなぎ倒し、堤灯屋に押し入り、新築途中の家一軒を破壊しながら、走る、走る!おっかけは喜劇の原点。それを大スターの錦之助が、力いっぱいバカしまくって「逃げ回って」くれるとなればありがたくて涙が出るというものだ。

 ひばりの放蕩親父・大河内傳次郎。戦前からの大スターのはずであるが、なぜかこの人はこういう作品にも平然と出演している。それも見栄ばかり張るただのロクデナシ親父として、ちんぴら相手にズッコケたりしてくれる。なりふりかまわぬ作品選びは大河内山荘の庭石のためだとか聞くけれども、少々怒りを覚えるというか、情けないと言うか。角川映画の「金田一耕助の冒険」に三船を引っぱり出し、薄くなった頭をボリボリかかせて、その上ハゲよばわりしたときは、大林宣彦をブン殴ってやろうと思った、あの時の感覚と同じ。

 悪者共の陰謀を打ち砕き、とうとう、どちらかが将軍(八代将軍・吉宗)になる日が来た。二人はくじ引きで決めることにした。錦之助の心あるイカサマにより、紀州の賀津雄が勝ったが二人はいつまでも友達でいることにした。めでたし、めでたし。重厚な錦之介(錦之助じゃなくて、ね)と、曲者の賀葎雄、という近年の芸風しか知らない人がこの映画を見たら腰抜かすかも。

1998年01月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16