「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


弾丸ランナー


■公開:1996年
■制作:日活
■監督:サブ
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:田口トモロヲ
■備考:野球帽をかぶった大人は、とてもアブナイ。


 調理師免許をもった地味な奴・田口トモロヲが抑圧された日常から自分を解放すべく、銀行強盗を計画する。変装用のマスクを買いに立ち寄ったコンビニで小銭がなかった田口はマスク(学童用)をギってしまい店員・DAIAMOND★YUKAIにとっ捕まりそうになる。あわてた田口が三下やくざ・堤真一から買った拳銃で店員を撃つ。正常な人間ならここで腰を抜かすところだが、店員は薬物中毒患者であった。店を飛び出した田口を店員が追いかけはじめた。

 商店街で、田口と店員が偶然、堤に衝突する。親分のためなら命を捨てると大見得を切っておきながら、襲撃のとき「ひょい」と身をかわしてしまい、親分はおろか兄貴分・大杉蓮のタマまでも目の前で取られて、しかもその仇討ちすらビビッてできなかった堤は、とりあえず自分がシャブを売りつけていた店員を殺そうと、二人を追いかける。

 延々と、延々と三人は走る。途中でプリプリしたOLを目撃した三人は、限界ぎりぎりの長距離を走ると訪れるという、ランニング・ハイ状態になりかかっており、三者三様の妄想にムラムラしながら、さらに走る。そのころ堤の所属している組は報復のために、警察は抗争事件の警備のために、さる暴力団の組事務所(組長・麿赤児)へ向かっていた。そして走り続けてヘロヘロになった三人はどこでどう入り組んだのか、ヤクザと警察が大集結している現場へ突撃してしまう。

 野球帽、アメリカのメジャーリーグならいざ知らず、ヤクルトスワローズのキャップを被ったイイ歳こいた大人は、普通はいない。そんな姿で銀行に足を踏み入れればあっという間に注目の的。冒頭、銀行襲撃の練習をしている田口トモロヲのいでたちがそれだ。

 非日常を目指した、秒単位の周到なリハーサルの結果が、マスクの買い忘れと言う、なんともセコくて所帯臭い原因で崩壊し、あれよあれよと言う間に、おいかけっこというお笑い空間へワープするスピード感が心地よい。

 彼等は皆、気が狂っているのである。やくざに拳銃とられてノホホンとしている刑事、自分がカッコ良く死ねることを夢想するやくざ。この映画に登場する男は全員、気違いだ。多様な狂気の生態系を「おっかけっこ」というドタバタ喜劇の原点で一本に繋ぎ合わせて、終末目がけて一気に突っ走る(文字どおり)、ただただ走り続けるのだ。

 互いに一線を踏み超えて、狂乱状態になった警察とやくざが殺し合い、そのどさくさにプロパンガスのボンベが壊れる。DAIAMOND★YUKAIは学童用のマスクを田口から奪い、店に戻る。堤は死んだ。そして田口の手には百円ライターが握りしめられていた。田口がにっこりと笑って、ライターに指をかけたところで、映画は終わる。

 堪え性のない現代気質を描いているようで、実はとても普遍的なエモーションが共感を呼ぶ。狂気こそが男のロマン、それを映画に求めるのはとても自然だ。

1998年01月19日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16