大江山酒天童子 |
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■公開:1960年 |
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平安時代。京の都には野盗や妖怪変化のたぐいが出没しまさに百鬼夜行の様相を呈していた。伝承されている「大江山酒天童子」は源頼光と四天王の鬼退治、ということになっているが、実は酒天童子は時の朝廷に反旗を翻した人、というのが本作品のストーリーだ。 朝廷・小沢栄太郎に愛妻・山本富士子を強奪された武士・長谷川一夫は、小沢に復讐を誓って、妖術を使う茨木・左幸子や、黒牛に化ける・千葉敏郎、土蜘蛛・沢村宗之助、さらに、押し込み強盗を生業とする野盗・田崎潤らとともに大江山に籠り自らを大江山酒天童子と名乗って洛中を震撼させていた。 源頼光(「らいこう」と呼ばれる).市川雷蔵は小沢から山本富士子を差し出され妖怪退治を押し付けられる。山本の口から「大江山酒天童子は私の愛する夫」と聞いた雷蔵。女にはやさしいとされる鬼の棲に、渡辺綱・勝新太郎の妹・中村玉緒を送り込んでスキを伺うことにする。雷蔵の聡明な性格にもひかれつつ、夫を忘れられなかった山本富士子が自害してしまう。 山伏に化けて潜入した雷蔵が山本の遺髪を長谷川に届け、正々堂々の勝負を挑むが、玉緒が止めた。優れた武将のどちらか一人が欠けるのは惜しいというのだ。 冒頭、小沢の宴会場に現われる巨大な黒牛、茨木(鬼女)と綱との対決シーン、斬られた片腕を取り返しに来た茨木のフライングシーン、土蜘蛛と武将達の合戦、と壮麗な特撮シーンが目白押し。特に沢村宗之助の怪演による土蜘蛛が雷蔵を襲う場面は圧巻だ。宗之助の目は完璧にイッちゃってるし、額から流血しながらぴょんぴょうんはねまわるところなんか、マジで怖い、ちょっと別の意味だけど。 特撮だけでなく、そこはそれ時代劇映画としてきっちり見せ場もある。山伏に化けた雷蔵を長谷川がテストするところはまるっきり「安宅の関」そのもの。長谷川と雷蔵の掛け合いは、鳥肌が立つ程の完成度だ、究極の様式美ってのがコレだね。二人とも出自は歌舞伎。立ち居振る舞いが、勝新太郎でさえ足元に及ばないくらいの美しさなんである。歌舞伎役者に時代劇で来られちゃあ勝てないやね、まして長谷川一夫と雷蔵だもん。もうこれだけで満腹しちゃうぞ。 「大魔神」でもそうなんだけど特撮時代劇ってお金かかっているなあと、しみじみ思う。なんてったって特撮と時代劇だもん。片っぽだけでも大変なのにねえ。衣装もすげーゴージャス。酒天童子なんか鏡獅子みたいなのから、白無垢、そして合戦の時には白い鎧でバッチリキメキメ。雷蔵もお姫様達もとにかく美しく、まるで王朝絵巻そのもの。衣装だけでも充分に眼の保養ができてしまうのだ。最近のテレビ時代劇なんてもう貧乏臭くて金輪際、見る気がしなくなるかも。 長谷川一夫は最初は私怨でゴロツキどもの頭領になっておきながら、そいつらが手におえなくなると「親の心子知らず」とか言って急にペシミスティックになるし、自分の都合が悪くなるといつも他人のせいにするし。朝廷を倒そう!と仲間になった妖術使い達を次々に犠牲にして自分は無傷、結局、雷蔵と和解して自分はトンズラ。大スターはどんなときでも、自分に都合の良いほうにしか物事を捉えず、まして自己犠牲をともなうような反省をしてはいけないってことなのだ。 玉緒の努力の甲斐あって、長谷川はこれ以上、血を流さなくても雷蔵がいるから、いずれ天下は良くなるだろうと、部下に武器を捨てさせる。で、大江山酒天童子は今までの非道を詫びて切腹のひとつもするかと思えば、さにあらず。ものすごく濃ゆ〜い流し目をカメラ目線で一発キメて、長谷川一夫は何処ともなく去っていくのでありました。 スターは無敵だ。鬼女よりも、黒牛よりも、巨大蜘蛛よりも、目から怪光線をビシバシ放つスター・長谷川一夫こそが一番手強い「妖怪」だったのである。 (1998年01月03日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16