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仁義なき戦い 代理戦争


■公開:1973年
■制作:東映
■監督:深作欣二
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:北大路欣也
■備考:


 つくづく人徳のない親分・金子信雄は病気療養中の名和宏の組の跡目を継ぐことになる。一度は跡目候補とされたナンバー2・加藤武は、いじけて神戸の丹波哲郎の舎弟になる。呉の菅原文太は仮釈放の身分であるが、その器量で関西方面のやくざ社会では一目置かれる存在。ゆえに色々なもめ事の後始末を任せれて、苦労が絶えない。

 さて一度死んだ人間が何遍でも生き返って平然と活躍するのが本シリーズの特徴。今回は加藤武の幹部で室田日出男、女好きの鉄砲玉で山城新伍、神戸の中堅組長で遠藤辰夫、そしてなくてはならない川谷拓三が復活した。拓三は女にテレビを買ってやるために組で管理していたスクラップを横流しして文太にどつきまわされ、片手首を落として詫びを入れるという相変わらずの大奮闘。

 金子親分のように、どうしようもない人物であってもひとたび組織の頭になったら、あだやおろそかにできず、部下は苦労させられる、というのは実際、堅気の社会でもよくあること。世の中というのは不条理なもので、優秀な人物が優遇されるとは限らないし、実力も実績も将来性もないからといって落ち込む必要はもない。人間、どこに落し穴があるか予測できないし、どこにタナボタが落ちてくるか分からない。

 金子信雄と木村俊恵夫妻の大活躍。妻の内助の功にはひたすら頭が下がります。ボーッとしている外見とは裏腹に、鋭い嗅覚でその時々の味方を嗅ぎ分け、にこやかな笑顔でオネダリしまくり。女にやさしいのは男だけだということを、百も承知の鉄面皮。泣きの金子に、ブリッコの木村。この夫婦の危機管理能力の高さは見習うところが多い。

 このシリーズにおける役者のメイクや衣装は誰が決めていたのか。誰が梅宮辰夫の眉毛を剃ったのか。ああいうコワイ顔を、なぜ映倫は許可したのか甚だ疑問である。辰兄いは無愛想なヤサ男タイプ。能面のようなマスクからさらに眉毛を落としたものだから、ただでさえ乏しい表情が余計に無表情になった。無表情のコワイ顔というのはとてもコワイ。何考えてるかさっぱり分からないというのは、むき出しよりもはるかに恐ろしいのである。

 さて、今回の汐路章は前回のインチキくさい祈祷師から学校の先生に昇格。ごんたくれの工員・渡瀬恒彦を文太に紹介する。乱暴な渡瀬だが、根は生真面目な奴で、自分の無鉄砲で迷惑をかけた文太に、なんとか報いたいと加藤の組のコウモリ幹部・田中邦衛を襲撃するが、事前に拓三がチクッたために惨殺される。

 自分の保身と勢力拡大のために薄汚ない取り引きも全然平気、幹部達のサジ加減ひとつで、虫けらのように死んで行く若い衆。一人一人に親があり、恋人がある。その人生を将棋のコマ程度にしか考えていない親分達への怒りは、渡瀬の葬儀に参列したところを襲撃された文太が、ひしゃげた骨壷(文太は骨箱のお陰で銃弾から逃れる)から散乱した、まだカンカンに熱い渡瀬の骨を握りしめるシーンに集約される。広島といえば原爆ドーム、文太の怒りは原爆よりも熱い。

 広島限定勢力拡張戦は、広大な大陸を舞台にした三国志よりも、セコイ分だけ断然、面白い。

1998年01月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-03-26