殺人狂時代 |
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■公開:1967年 |
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偏執狂とは「ある一つの物事に偏執し、その事では異常な行動まで行う精神病状態」と広辞苑にある。パラノイアとは偏執病である。 水虫持ちの貧乏大学講師・仲代達矢が、ある日、謎のパラノイアデブ・小川安三に殺されそうになる。ルポライター・団令子、車泥棒・砂塚秀夫と知り合った仲代は変装し、真相を探ることに。地下鉄のホームで初老の殺し屋・沢村いき雄に狙われた仲代は「大日本人口調節審議会」という団体の存在を知る。 生まれる前の命を奪うのでは効率が悪い、育って後、役立たずと分かった人間を抹殺するというのがこの団体の目的。代表者は精神病院を経営しているマッドサイエンティスト(文字どおり)・天本英世。これにナチスドイツの財宝盗難事件がからんで、その現在の持ち主として仲代が狙われたのだった。 パラノイアといえば仲代達矢である(大胆だねえ)。しかしながら仲代達矢のあだ名は「モヤ」である。霧がかかったようにボーっとしているからだそうだ。役どころとは正反対である。 「天国と地獄」の警部を見よ!あの映画のなかで、一番アブナイ奴は誰かといわれれば、どう考えても仲代達矢だろう。この映画でも殺人マシーンの誰よりも、パラノイア的だったのは仲代である。ヌーボーとした学者を演っても、ハードボイルドでセクシーな殺しのプロを演っても、両方演ってちゃんとキマルところが凄いのだが、やっぱりパラノイアっぽい。 天本英世は、精神病の患者の中から、偏執狂を特に選抜し殺人鬼として育成している。この精神病院のセットがやたらとシュール。スタンリー・キューブリック監督の映画を思い出してもらうと分かりやすいかも。アラベスク模様の摩訶不思議な曲線のトンネルの両側に、整然と並ぶショウケースに収められた狂人達。笑う中山豊、吠える山本廉。こんなにドライでシュールなシーンが登場する日本映画なんて他にあるか? 岡本喜八作品のなかでは珍しく主人公がスマートなセックスをする本作品。最後まで小柄なボンドガールかと思った団令子が、実は天本の娘で仲代を殺そうとして、失敗し自殺してしまうところは、物悲しいが、組織の手下どもがお互いを「ソラン」「パピィ」「アトム」などと呼び合ったりして、監督の漫画好きなところが垣間見えて概ね楽しい。 イアン・フレミングを目指した都筑道夫の原作。そうと分かればナルホドと思うが、めくるめく殺しのテクニックを堪能するもよし、お茶目な手下の二瓶正也を探す(実際、ヒッカケとしていろんなところにこっそり登場する)のもよし、の見所いっぱいの映画。オチとして、実は仲代には双子の弟がいて、ナチの陰謀を知るや兄の大学講師と入れ替わって、そっちが殺しのプロだったというのが、いかにも人を食っていて良い。 ところが天本英世は実は死んでなくて、後「ブルークリスマス」(岡本喜八監督のSF映画)にカルトな集団の長として復活するのだ。そんときは今回の反省をこめて片腕に仲代達矢よりかもっとキテる岸田森を採用していた。やるじゃん!天本さん。 (1998年01月31日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16