穴 |
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■公開:1957年 |
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出版社の記者・京マチ子は、ゲジゲジ眉毛にカイゼル髭の警部・菅原謙二の汚職を告発する記事を書いて、クビになる。食うに困った挙句に、自殺を考えた京は友達の北林谷栄に「すばらしいルポの企画がある」と言われ、ホイホイと乗ってしまう。 北林の企画と言うのは、自分が完璧に「蒸発」できるかどうか?30日以内に自分を発見できた人に賞金を出し、見事逃げおおせたらその賞金は自分のものになる、というギャンブルであった。弱小出版社の社長・潮万太郎がその企画に飛びついた。しかしながら逃げるからには金が要る。北林の紹介で京は第億銀行の支店長・山村聡に「逃亡資金」を借金する。しかし、どうも山村は腹に一物ありそうだ。 逃亡29日目に自分のアパートへ潜伏した京の部屋へ、身に覚えのない月賦の督促状が届く。どうやら第億銀行に自分と同姓同名の人間がいるようだ。事情を探り始めた京は第億銀行の出納係に呼び出された。出納係の自宅に赴くと彼の死体が、、。 まるまる1ヵ月の間、消息不明になる京マチ子のソックリさんを銀行員として雇い、多額の預金を横領させ、全ての罪を京になすりつけようとしていたのだ。真犯人は山村らしい。京は山村の腹心・船越栄二に協力を依頼するが、彼も山村の共犯者だった。 京マチ子といえば井上梅次監督の「黒蜥蜴」が有名だが(そ、そうか?)、本作品でもノーメイクでボサボサ頭の疲れた職業婦人から、ど派手な化粧のキャバ女(スケ)、はては男にフラれた田舎娘と、七変化を披露。地下室からの脱出、犯人の仲間を感電させるテクニックなど、いっぱしのアクションスターのイキオイ。これに絡む北林谷栄もキャサリン・ヘップバーンを彷彿とさせるハイカラなお姉ーさん役で登場。お洒落、お洒落、とにかく泥臭いところなんかひとつもありゃしない。 対する男性側は珍しく悪役の山村聡、可愛い顔してワルの船越栄二、線の細い三船敏郎然(ちょっと矛盾するけど)としたちょっとおマヌケな菅原謙二、いずれも垢抜けていて、このブラックコメディを品良くまとめている。 犯人が船越だと分かってからが、なかなかスリリングで、トラップもよくできている。京マチ子が船越を誘惑し、証拠の横領した現金を取りに行かせて逮捕させる。追い詰められた船越が窓ガラスを突き破って投身自殺。ポッカリと空いた「穴」の向こうに朝日が上って、このドライなミステリーは幕を閉じる。 出演者、特に京マチ子がとにかく早口だ。感情のこもらない台詞が機関銃のように飛び出すので、この不条理な一連の出来事を「ヘンだな?」なんて気付かせない。なんともお洒落でミステリアスな映画であった。 (1998年01月20日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16