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豹(ジャガー)は走った


■公開:1970
■制作:東宝
■監督:西村潔
■助監:
■脚本:
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:田宮二郎(筆者断定)
■備考:さようなら、若大将。


 東宝はこの映画で「若大将」を葬ったのではないか?

 この映画の主役が加山雄三だというのは完全に間違っている。

 内乱の続く東南アジアの某国の首相が米国への亡命を求めて、日本へやってくる。警視庁の警部・加山雄三は対立陣営と、内乱の継続によって潤う死の商人・中村伸郎の双方から命を狙われている首相を「超法規的手段」で護衛するため、警視庁を辞職して身分を隠し身辺警護をする。中村に雇われたのは国際的な殺し屋・田宮二郎。彼のニックネームは「ジャガー(豹)」。

 ドブネズミ色の背広を着て、ほっぺたプルプルの加山雄三に対して、ダークブルーのスリーピースを着こなした長身痩躯な田宮二郎。どっちがカッコイイかなんて聞くほうが野暮。加山雄三のハードボイルドシリーズは「狙撃」「弾痕」と、この「豹は走った」の3本。前作で加山をハチの巣にした反省と、反道徳的なポジションに加山を置くことに(たぶん)限界を感じた東宝は、とうとう彼を体制側の警察官に戻してしまった。加山の身元が「射撃大会」の写真でバレるってのも「紅の空」のモロ二番煎じである。

 ダッセー映画かと思うとあにはからんや、これが面白い。これはすべて田宮二郎の功績である。まず登場シーンがカッチョイイ。まだローカル空港に格下げされていない羽田空港、しかし空港が似合うね田宮二郎は、近くの駐車場で中村の秘書・加賀まりこと契約を交す。「ゴルゴ13」の無機質でハードな魅力に、嫣然たる笑みをプラス。その横顔は泰然自若、大人男の魅力が大爆発だ。

 この映画の主演は田宮二郎である、誰がなんと言おうとも。

 最初の暗殺計画はコールガールを首相のベッドルームに送り込んでカーテンを開けさせ、それを向かいのビルの屋上から狙う。加山は屋上のネオンサインが消えているのに気付いて、田宮の後を追うが暗殺は実行される。モタモタ追いかける加山に対して、軽快な身のこなし(スタントくさいが)で楽勝で逃げる田宮。ああ、なんてカッコイイんだ。実は田宮が狙撃したのは首相に随行していた将軍だったんだけどね。

 加山は加賀まりこを見てもなんにもしないが、田宮二郎はちゃんとやるべきことをやり、観客を満足させる。行きずりの金髪娘を保護する田宮。彼女はベトナム戦争でフィアンセを殺されて自殺するつもりだったのだ。言葉でなく体で彼女を慰めた田宮は、帰国するという彼女を車に同乗させ見送る途中、ターゲットの首相一行に出くわす。もちろん田宮は仕事をしようとしないが、首相暗殺を企む別の一団が襲撃してくる。警護の警官に撃たれるテロリストを見て、恋人を思い出した金髪娘が飛び出したところを、勘違いした加山が射殺してしまう。

 田宮の無言の怒りが燃え上がる。死んだ娘が大切にしていた亡きフィアンセの認識票を握り締める田宮二郎。まるで「ランボー」。今度は加山の部下・高橋長英が加山と間違われて田宮に殺される。う〜ん、二度も間違えちゃいかんなあ二郎ちゃん、とか思いつつ。これで田宮と加山は五分と五分。勝負の時はいよいよ迫った。

 田宮の暗殺は加山の度重なる機転で成功せず、ついに首相は米国へ旅立つ。もう首相のことなんかどうでもよくなった田宮は加山に決闘を申し込む。ここんところでも圧倒的にかっこいいのは田宮二郎。スタイル抜群の外人体型の田宮二郎と並んだ加山雄三はまるっきりチンケな東洋人だ。スローモーション過多の銃撃戦の演出はちょっと凝りすぎだが、銃弾を受けて血糊がピュルピュル〜ってのはハリウッド的なバカっぽさが出ていて面白い。

 傷ついた二人の頭上を飛行機が横切る。首相が亡命した後の某国では再び内乱が激化した。任務は無事に遂行したが加山雄三は空しい気持ちで一杯になるのだった。

 この映画を見ていた加山雄三ファンもまた虚ろな感慨を抱いたに違いない。「なんでここまでビジター(田宮二郎)にフランチャイズ(加山雄三)がコケにされにゃあいかんのよ」と。これは東宝が若大将に突きつけた三くだり半なのだ、あくまでも結果的にだが。

1998年01月27日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16