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やくざ残酷秘録 片腕切断


■公開:1976年

■制作:安藤企画

■監督:安藤昇

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:安藤昇

■寸評:


 「やらせ」とはなんであろうか。「ニセモノ」がやる「ニセモノ」は「フィクション」である。「ホンモノ」がやる「ニセモノ」が「やらせ」なのだとしたら、「ホンモノ」がやる「ホンモノ」は「ホンモノ」なんだろうな、やっぱり。

 この映画は18歳未満禁止である。別にエロ映画だけが子供が見てはいけない映画ではない。この映画では本物のシャブ打ち(たぶん)、花札賭博、覚醒剤の注射、ちんちろりん、入れ墨師、やくざの親分、トルコ(現ソープ)嬢とそのヒモ、指詰め(流血、ノミ付)が登場する。本当に指が、こう、すぱーん!と切れて飛ぶのである。

 いやあ、すごいモノを観てしまいました。こんな映画がウラビデオでもなんでもなくて、劇場公開されていたという事実が、もの凄いことだと思います。元ホンモノが現ホンモノを取材しているという体裁ですが、近年テレビで高視聴率を稼ぐ定番的な「警視庁密着ドキュメンタリーがいかに教育的な視点で描かれているかがよく理解できますね。こういう真反対の視点で撮られた映像を見ると。

 冒頭の「諸先輩がた、諸団体の皆様の協力に感謝します」という安藤昇の言葉にあるように、諸先輩も諸団体の人々もすべて映画の中に実名で登場する彼等は、制作側と限りなく等しい目線で登場します。なんか村の青年団の人達のような、ごくごく普通の人として画面に登場する人達は、みんな「やくざ」。

 モノの見方や描き方ってのは視点を変えると、こうも違うのだということがよく分かります。

 「残酷」な「秘録」なんですから、内容は推して知るべしです。親分たちはともかく、シャブ注射している下っ端は全然顔が写りません。あたりまえですけど。「隠しカメラ」というよりは「写さないようにしているカメラ」ってかんじ。「あんな映画やテレビのやくざなんてまるっきしデタラメじゃねえか、よし、俺が本物を見せてやる」およそ想像される企画会議のヒトコマですね。

 ところどころに、明らかに「演出」のシーンがありますが、それらがとても「ホッとする」シーンに見えてしまうほどの、ド迫力。全編見ているこちらがハラハラしてしまうほどの怖さで充満しています。これはドキュメンタリー映画ではありませんね。一級品のホラー映画というのが観る側の素直な感想です。

 やくざ社会を良いとか悪いとかそういう視点ではなく、赤裸々に淡々と語る映画。制作の安藤昇にとってはとてもノスタルジックな、登場している当時の現役の人達にとっては限りなく日常的な出来事。世の中には大多数の人達がまったく知らない、もう一つの流れが存在するという、あたりまえの事実を見せつけられるセミ・ドキュメンタリー映画。

1997年11月29日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16