「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


せんせい


■公開:1989年

■制作:トムソーヤ企画

■監督:山城新伍

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:松方弘樹

■寸評:


 エンタテイメントは作り手が客とシンクロして楽しませるべきだと思う。作り手が先に楽しんでしまった結果、上手くいったためしがない。そういうのを楽屋オチと言う。おおむね、客と作り手に良好な事前了解事項が成立する演劇よりも、この現象は映画において生じやすい。たとえば本作品でキモの1つになるのは水島道太郎であり、この俳優に対する山城新吾の「思い入れ」が理解できなければこの映画を作り手の意思のとおりに理解することは成立しないだろう。

 山城新伍は確かに頭のよい人だと思うが、反面、理屈っぽいところが鼻につく。役者なんて半馬鹿ぐらいが丁度よいと思う。本馬鹿では台詞が入らないから仕事にならないだろう。

 佃島にある佃島第二中学校は廃校になることが決まった。数学の松方弘樹、理科の地井武男、社会の千葉真一、英語の梅宮辰夫。彼等ベテラン教師達は取り壊される中学になんの執着もない。国語教師の渡瀬恒彦は、校舎を見つめている老人・水島道太郎と孫の現役生徒の会話を耳にする。「昔は素晴しい先生がいた」という老人の言葉に奮起した渡瀬が、他の先生に「生徒に愛される先生になって、生徒に良い思い出を残そう」と説得するが誰も取り合わない。

 コワモテのオヤジに疎外される渡瀬恒彦を見ていて「実録・私設銀座警察」思い出した人は手を上げよう!と、通好み(か?)のネタはさておき、この作品のタイトルは「せんせい」(題字・佐久間良子、東映出身)である。

 大体ねえ背広の前全開で肩揺すって歩く「教師」(梅宮)なんているか?千葉ちゃんはスクーターに乗って、それがかなり危なっかしい運転なんだけど、柔和な笑顔で手を振るわ、校舎の屋上でマット運動するわ。趣味が水彩画っていうチイチイはパイプをくゆらせてるし、弘樹おにいちゃんは因数分解教えているし、梅宮なんか授業のシーンはゼロだぞ!当り前だけどな。

 渡瀬の熱血教師ってのも意味不明。そりゃこのメンツじゃペーペーだろうけど世間から見れば、分別のありすぎるただのオヤジだもん。ああ、辛いなあ、観客を辛くさせる映画って良くないよなあ。でも渡瀬にホレている南果歩のちょっとオツムの足りなそうな補助教員とか、ハイミスでエキセントリックな沢田亜矢子は笑わせてくれた。

 随所に「日本の教育界にもの申す!(江頭風)」みたいなのが出てくるのだが、山城新伍はこの小賢しい映画をなかなか上手にまとめている。すごーく地味な女の子が出てくる。夏休みの補修授業に真っ先に参加して、他の生徒がブータレているときも、じっと作文を書いている。勉強なんかてんでドベなのに。その作文で先生たちは彼女の父親が癌で、四年に一度の佃島のお祭りを楽しみにしていることを知る。

 貧乏、難病、地味。観客の涙腺をゆるませる要素はカッチリと整えているのだ。

 ここから映画は一気に「どぶ川学級」または「中学生日記」ワールドへ突入する。神社の御輿をPTAの会長であり宮司の北大路欣也のイキな計らいでマネッコして作り、子供だけのお祭りをしようとする。今までバラバラだった子供達の団結、親子愛、そんなカビの生えたお涙ちょうだい映画がなぜか、ジワッとくる。

 これもひとえに登場する大人の面々が生臭く、世俗にまみれた、分別盛りの役者ばかりだからだったのでは?「やくざ映画に出てくる人達による学校映画」そのミスマッチ感覚が子供達のドンくさい芝居を実力以上に崇高なものに見せたとしたらこのキャスティングはかなり卑怯だよな。

 「どうしたら女にモテるのか教えてくれよ!」と松方に聞く生徒、「美味しいものが食べたい!」と梅宮にねだる生徒、とっくみあいで千葉ちゃんにぶっとばされる生徒、教育委員会の嫌味な委員が山城新伍、キザな塾の経営者の津川雅彦、などなどほかの「お約束」のシーンは噴飯ものではあるけれど、少なくとも映画でなにか言いたい!という作り手の真摯な情熱だけは共感できる。

 失われていくモノへの愛着。それは酒焼けした顔にボテ腹をもてあまし、今のテレビ界で道化に徹している彼等、映画俳優(死語ですな)達のボヤキなのかもしれないが。ラストにゴミとして処理される「お御輿」の絵もなかなか良かった。思い出は所詮、消えていくものなのだ。憂えるのも人間、忘れるのも人間。人間が通過していく「学校」という空間をなかなかうまく利用した、センチメンタルな映画。

 この映画作っているときだったっけ?風呂用の泡立て機「バブルスター」(たぶん金出したんだろうな)のCMに出演者が総登場したのは。バスタオル一丁でさ。「清く正しくバブルスター」とかなんとか一言づつ喋るの。でも欣也だけは何も言わなかったんだよね。いくら金のためとはいえ、あんなアヤシゲな会社のお先棒を担がなかったところはさすがプリンス!案の定あの会社、社長が捕まったかなんかしたじゃん。うーん、やっぱ胡散臭い映画だな、、、。

1997年11月30日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16