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踊る龍宮城


■公開:1949年

■制作:松竹

■監督:佐々木康

■製作:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:川路龍子

■寸評:


 日本ではミュージカル映画は成功したことがほとんどないと言っていい。たとえば「鴛鴦歌合戦」のように生臭さが消えてしまったことで再評価されるヘンな部分はあるのだが、本作品も「巨星ジーグフェルド」のようなレビューを目指してガンパッタ系、かつ天才子役の美空ひばりが「河童」役で出演していたので歴史的な価値を持ってしまった例の一つ。

 龍宮城で歓待された浦島太郎・川路龍子はいよいよ地上へ帰ることになった。乙姫が家来のデブ亀・岸井明とおっちょこちょいの蛸・森川信に命じて玉手箱を取りに行かせる。その玉手箱をお土産にもらった太郎が丘へ上がるとそこは現代の日本。太郎が生きていた時代から数百年を経てその島では「陸の竜宮城」というレジャーランド建設の真っ最中。太郎は「浦島太郎なりきりコンテスト」会場に迷い込み優勝してしまう(そりゃそうだ本物なんだから)。

 玉手箱をすられてしまった太郎は本物だと信じてもらえず精神病院送りになるところを警察所長の娘、アン子(アンコウ)に助けられる。玉手箱をすったのはスリの少年サバ吉・大坂志郎と娘サヨリ・小月冴子。そして彼等を操る親方の正体はなんと悪河童・大辻司郎だった!

 思えばテレビが無い時代、映画でしかスターが「動いているところ」を見られなかった人達がたくさんいたわけですね。たとえば霧島昇並木路子が歌う姿を見る数少ないチャンスを映画は提供していた、映画はかつて最大有力な広告媒体だったということですね。そういう時代の映画ですからスター一人一人をピンでしっかり「見せてあげる」シーンがたくさんあります。

 主役の川路龍子をはじめとする当時の松竹歌劇団(SKD)の男役スターってのはカッコイイですよ。キリっとしていながら昔風の清楚な女性らしさみたいのが同居していて、まさに美貌の両性有具。最近の歌劇スターってセックスレスでなんか味気ないんですよ、麗人というより、まんま少年(ガキ)っぽくて。川路らの当時の男役スターは今見ても充分見栄えします。長身で頭ちっちゃいしスタイル抜群、男役ですから塀の上から飛び降りたりするアクションもちゃんとこなします。

 対する悪河童の大辻司郎。伝説のお下劣番組「ハレンチ学園」の初代・ヒゲゴジラの大辻伺郎のお父さんですね。飛行機事故で亡くなった芸人は坂本九さんだけではありません。大辻司郎さんも木星号という旅客機の墜落事故で亡くなりました(息子は厭世自殺)。容貌怪異で頭の天辺から突き抜けるような珍妙な笑い声(息子も真似してました)がヒロインを手込めにしようとします。なにせヒーローが男装の麗人ですから、その憎ったらしさは、デブった下っ腹や下品な物腰で一気に観客のボルテージを上げさせます。

 冒頭の絵に描いたような、いや、実際にホリゾントに描いた絵だったり、ダンスシーンではマスク合成したマット絵なのですけど、龍宮城もきらびやかでイイです。そりゃ現代から見たらできそこないの学芸会の描き割りですけど、いいんですよ、そんなことは。蛸と亀の衣装が全身タイツで汗染みができてたりしてビンボくさいとか、そういうところは見ない、見ない。

 龍宮城と河童の国、水中が舞台なのでダンサーもみんなセパレート(股がみの深いブルマと、頑丈そうなブラ)水着で健康的な生足を惜しげもなく披露してくれます。昭和のグラマーってやつでしょうかね。

 そして女王.ひばりはどこに出てくるかというと、河童の国で子供の河童として「河童ヴギ」を熱唱。ちなみに河童スタイルですからヘアは「サザエさん」の波平(ただし頭頂部の一本はない)状態なんですが、これがなんかもう、ものすごくアバウトなかつらです。だってかつらの襟足からカーリーヘアがぼうぼう見えているんですもん。かつらというよりほとんど「帽子」ですね。

 龍宮城のお使いとして出てくる森川信は「男はつらいよ」の初代・おいちゃん。警察署長役で中村是好、そしてレビューショーの司会が日守新一(「生きる」でラスト、公園を見つめる人情味溢れる役人を好演した人)、大坂志郎、岸井明、みんな腰抜かすほど若いです。とは言うもののあまりに古すぎて誰が誰やらさっぱり、なんですけどね。

 最初に乙姫が渡した玉手箱は人を不幸にする玉手箱。あわてて取り替えに来た乙姫のおかげでみんなは助け出されます。そして幸福の玉手箱を開くと、浦島太郎は元の漁師の姿に戻って乙姫と、アン子は美男子の船員と、それぞれ結ばれます。霧島昇御大のタキシード姿の熱唱に送られ、乙姫と太郎は小船に乗って龍宮城へ去って行くのでした、メデタシ、メデタシ。

1997年09月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16