「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


風速四十米


■公開:1958年

■制作:日活

■監督:蔵原惟繕

■製作:

■脚本:

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:石原裕次郎

■寸評:石原裕次郎に水でもぶっかけてみるか?くらいの映画。


 大映の「風速七十五メートル」はサスペンスがらみとはいえ、一応本格的な災害映画だが、三十五メートル足りない本作品は、あくまでも台風は添えもので、本線は企業乗っ取りに絡む人間ドラマと、石原裕次郎の股下丈であった。

 登山が趣味の大学生・石原裕次郎は、友達の川地民夫とともに、台風に巻き込まれた女子学生・北原三枝のグループをヤクザな連中から救ってやる。裕次郎の父親・宇野重吉は弱小建設会社の技師で最近、再婚したばかり。卒業が迫った裕次郎のために大手の建設会社への就職を奨めるが、裕次郎は川地の姉のシャンソン歌手・渡辺美佐を迎えに行くのを口実に、入社試験をスッポかす。

 父親の再婚相手の連れ子が北原三枝で、二人は最初からイイかんじ。渡辺美佐のパトロン・金子信雄は、実は件の大手建設会社の社長。裕次郎を一目で気に入ってしまい、無試験で入社させる。と、ここまでは、なんだか若大将シリーズみたいな調子の良さだが、ここからが佳境である。

 宇野重吉は金子の会社から、高額のサラリーと定年を前にして塩垂れていたプライドを利用されて、会社乗っ取りの手先にされている。宇野は自分の会社の社長・小高雄二を裏切っていたため、裕次郎を別会社に就職させようとしていたのだった。

 こんな不純な大人の思惑を受け入れる裕次郎であってはならない。裕次郎の直情型の義侠心が爆発し、舎弟の川地を従えて長ドス片手に金子の事務所に殴り込み!しちゃうと「まむしの兄弟」になってしまうのであるが、そんな高卒的なリアクションを取らないのが、大卒ヒーローのコンセプトだ。まず宇野重吉に、偉そうにしかし爽やかに「人の道」を説き、目を覚まさせた後、突貫工事の現場を台風が接近する最中に妨害しに来たあらくれどもを、川地と二人でやっつける、当然、素手で。

 まさか千葉ちゃんみたいに高層ビルの鉄骨の上で乱闘するわけにはいかないので、ダンプで電源室を狙った悪者達を、地下室あたりでくんずほぐれつして戦うのだ。台風の豪雨、とにかくその放水量がハンパじゃないので、まさに役者は肉体労働だということを思い知らされる。川地なんか途中で完璧に息が上がっていた。

 最初に裕次郎に撃退されるヤクザ者は、いつものとおり深江章喜だ。ちなみに野呂圭介もいる。深江ってフランスの往年の二枚目大スター「アランドロンに似ている」らしいんだけど、どうだろうか?本人が言ったのか、誰かがからかったのかは知らないが、そう言われて見るとちょっと似てませんか?だめ?

 日活映画のコンセプトは「純粋な正義感の勝利」と「純粋な恋愛の勝利」である。「日活アクションなんてスカスカで大嫌い」と言う人がいるのは認めよう。あんまり難しいことをさせなかったからこそ、スターが最もスターらしく光る映画がたくさんできたのだとも言えるわけで、この「風速四十米」なんてその典型だ。第一、観てて楽だよ、日活の映画って。頭使わなくていいんだもん。

 裕次郎の人気が絶頂だったころに制作された映画。話そのものは他愛もないが、確かにこの頃の石原裕次郎の全身から発散されるオーラは意識しないで見ていてもビンビンに感じる。加山雄三の大らかさや、市川雷蔵の異次元的な妖気や色気とはまったく違う。鼻もちならないと言うと語弊があるかもしれないけど、それほど常人には理解し難い気風を感じる。なるほどこれが「昭和の大スター」なのかと、しみじみ納得できた映画。

1997年11月15日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16