人間椅子 |
|
■公開:1997年 ■制作:ケイエスエス ■監督:水谷俊之 ■助監:早川喜貴 ■脚本:水谷俊之 ■原作:江戸川乱歩 ■撮影:長田勇市 ■音楽:澄淳子 ■美術:磯見俊裕 ■主演:清水美砂 ■寸評: |
|
平成の時代に江戸川乱歩は谷崎潤一郎と合体したらしい。 外務省の高級官僚の國村隼と結婚した女流作家の清水美砂。彼女は異常な潔癖症。夫を愛しているが、子を宿すことを「汚い」と感じている。 ある日、清水宛に差出人不明の手紙が届く。そこには「椅子になった男(山路和弘)」の独白が綴られていた。椅子の中に入り、ホテルのロビーで様々な人間を「抱いた」その「男」は、その後、ある女流作家の書斎の椅子になったと記されていた。 彼女は気味悪がりつつもその手紙に欲情し、あまつさえ「椅子男」の誘いを受け、目隠しをして「感じる」セックスを楽しむようになる。そしてとうとう、彼女はその「椅子男」に駆け落ち話を持ちかける。当日、彼女は椅子男の正体を前から知っていたことを告白する。 江戸川乱歩の原作の映画化は石井輝男の「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」、増村保造の「盲獣」、加藤泰の「江戸川乱歩の陰獣」、このほか宇津井健が作家に扮した「一寸法師」、岡譲司が主演した「蜘蛛男」、東映の子供向け映画の二十面相には南原宏治や加藤嘉が扮していた、など。 特に石井輝男監督はつい最近、盲獣と一寸法師を対決させたりした。こうなると何でもアリだが、原作のほうがなんでもアリすぎるのであまり気にならない。「黒蜥蜴」なんて美輪明宏のと京マチ子となんて比べるととても同じ原作とは、やってることは同じでも見せ方でこうまで違うのもどうかと思うが、というくらいブレる。 と、先達の江戸川乱歩モノがいずれおとらぬ変態(じゃないのもあるけど)揃い、キワモノ博覧会みたいな部分があるので、多少の事じゃ驚かない。だからド変態や異形での勝負を避け、その表現を耽美的なフェティシズム方面へシフト。てなわけで谷崎潤一郎の「春琴抄」や「痴人の愛」「瘋癲老人日記」が合体してくる。ま、江戸川乱歩そのものが谷崎潤一郎のファンだったんだから、この映画はある意味、まっとうな描き方と言えるかも。 大正デカダンスってえと必ず、眉毛の上でぴっちり切りそろえられた前髪のおかっぱ頭、ってのが定番。この映画では清水美砂がこのヘアスタイル。これだけで変態っぽく見えてしまうのですから、これもひとえに「ツィゴイネルワイゼン」の大楠道代のトラウマか、それてもコシノジュンコの…(以下自粛)。 「日向の世界に飽きたの」という妻の愛をとりもどすために自分の目を西洋剃刀で「斬って」しまう亭主。結局、コイツが一番変態だが、彼がくりひろげる「そそる」技がこれまた凄い。目隠しをしてその技を体験する清水美砂。オープニングでいきなり生きている鯉にキスするシーン。あの淡水魚独特の泥臭さがプーンと鼻をくすぐって、思い出しちゃってもう、あの腐った金魚の水槽とか、そんなんで「エクスタシー」されちゃうと「コイツ、匂いフェチなのか?」とか思う。 あ、やっぱ変態だ、清水美砂。 革製の椅子の背もたれから、人間の顔が立体的にぐーっと出てくるところはちょっと「T2」入ってた(いやもちろん実写だが)。カラーフィルターをモザイクに使ったり、ワンカットで光学的に色を変化させたり、ノスタルジックな映画づくりにアレコレ知恵を絞る。本作品の特殊効果は日本の光学合成の重鎮・中野稔が担当、20世紀のロストテクノロジーを堪能。 清水美砂は顔がフツーなのにやることが変態なので恐い。「江戸川乱歩の陰獣」に出てきた、鳳蘭とケロヨンが合体したような田口久美なら何してもフツーに見えたが。このほか温水洋一、光浦靖子が出演。 (2003年01月04日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-05-16