「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる


■公開:1972年

■制作:勝プロダクション

■監督:三隅研次

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:若山富三郎

■寸評:乳母車くらい片手で押せん奴に胴太貫は使えん!


 公儀介錯人(首切り役人)、拝一刀・若山富三郎は、幼い地方領主の首を命令により斬り落とした。数日後、不吉な夢を見たという妻と使用人達が惨殺される。妻の供養の最中、柳生の手の者が若山の屋敷を訪れる。若山は職務とはいえ、斬首した人々の慰霊のために供養堂を建てているがそこに徳川家の位牌が置かれていたことから謀反の疑いをかけられ切腹を申し渡される。

 すべては裏柳生の陰謀と知った若山は、柳生の使者・渡辺文雄を斬り、切腹を見届けに来た役人も全滅させ、一子・大五郎とともに人斬り稼業の旅に出る。裏柳生の一族(頭領・伊藤雄之助)にいつか復讐するために。

 テレビの「子連れ狼」は萬屋錦之助で、こっちを先に見ているものですから、若山富三郎は、ずいぶんとたくましい拝一刀だなあと思ってしまいますが、映像化したのはこっちが先で、本作品はその第一作です。とにかく殺陣のすさまじさ、というかエグさはテレビでは実現不可能な迫力です。

 そもそも胴太貫って包丁で言えば出刃包丁、重い刀ですから、振り回すにはかなり体力要るはずです。錦之助だとどうも、こう、非力な感じがしましたけど、若山富三郎なら大納得です。だってあのガタピシ乳母車を片手で押しますもん。悪路ではさすがに両手ですけど、のぼり旗、あれですよ「子を貸し腕貸しつかまつる」ってのも、若山富三郎は車に付けずに背負ってます。

 三隅研次の演出が冴え渡るのがチャンバラシーン。殺陣に関しては数々の伝説を持つ若山富三郎ですが、たとえば、錦之助だとせいぜい足首までしか川につからないとすると、若山は腰まで。テレビではせいぜい、傷口から鮮血がドクドク、なのが映画では、噴水のようにジャンジャン出ます。喉に刀が刺さる五味龍太郎、首がぶっ飛ぶ露口茂、このようなスプラッタなシーンから、足を斬られた浪人が倒れた後、スネから下がまるでブーツのように立っている、という、お笑いシーンまで盛りだくさん。

 とにかく若山・一刀は重戦車の迫力です。走る、飛ぶ、ぶった斬る。スポーツ感覚の殺陣シーンは様式美うんぬんを超越した、人間の本能的な部分へ働きかける、なにか魔力がありますね。そう、それは怪獣映画の「ぶっこわし」とちょっと似ているかもしれません。しかも、カッコイイ!

 一刀は領主暗殺を企む連中の始末を引き受けます。湯治場を占拠した無頼の輩のボスが猿そっくりの関山耕二。関山は、素性を隠した一刀を最初は怪しむのですが、手下にいたぶられても反抗しない姿に安心します、ところが偶然通りかかり巻き込まれた病弱な侍が、口封じのため殺されそうになったとき、「切腹するから介錯をたのむ!」と叫ぶのを聞いて、関山は大真面目な顔をして「介錯?」と言います。

 ここでなんだか悪い予感がしたのですが、さらに命乞いをする坊主の念仏を聞いた関山は「拝む?」と言います。さらに関山は、一刀から取り上げた胴太貫を見て、目を白黒させて「きさま、拝一刀!」と若山の正体を思い出します。てめー、切羽詰まってる時に連想ゲームやってる場合かー!

 若山は箱車に仕込んだ槍で、悪漢共をなぎ倒し、見事、領主暗殺を防ぐのです。そして猿山の猿(関山耕二の本当の部下?)たちに見送られて「めいふまどう」(字が難しいので省略)の旅を続けるのでした。

 いやあ、それにしても裏柳生の烈堂役の伊藤雄之助。もう完璧にショッカーの首領状態ですね。絶対、笛かなんか取り出してそのメロディーでビジンダーが悶えそう、あ、あれは「キカイダー」でしたか。

 大五郎に人生の選択を迫るとき、鞠と刀と選ばせるんですけど、やはり、子供が刃物に手を出すシーンて見ていてハラハラしますよね、「手ぇ切ったらどうすんだ!」と、ここが一番見ていて緊迫しました、私としては。

 若山一刀は文句なしです、面白いです。ところが原作者の小池一夫はなにが気に入らなかったのか、再映画化のときはこともあろうに田村正和に一刀を演じさせました。小池先生にはマカロニウエスタン顔負けの若山一刀がお気に召さなかったのでしょうか。いくら若山さんの死後だって納得できません。若山さん、斬るなら錦之助さんではなく小池先生、でしたね。

1997年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16