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喧嘩犬


■公開:1964年

■制作:大映

■監督:村山三男

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:田宮二郎

■寸評:


 田宮二郎を語るとき、どうしても頭をよぎっちゃうのは衝撃的な最期だが、俳優として、実人生でも誇り高い二枚目だった俳優が、会社の方針に従って、物欲や社会的なステータスにまったくこだわらない明るい好青年を演じていたというのは、俳優が芸術家を気取る現代ではやや想像しにくいかもしれない。

 筆者はこうした時代の映画俳優が好きである。

 コルトの曲撃ちが得意な鴨井・田宮二郎は、刑務所でも大暴れ。弱き(海野かつを)を助け、強きをボコボコにする彼の正義感は、やたらといばりちらすやくざの親分・遠藤太津朗や、遠藤から袖の下をもらっていた看守・村上不二夫に対して大爆発する。先に出所した海野の女房・坂本スミ子が遠藤に取られた。

 後から出所した田宮としてはかわいい(体格的にも)海野のピンチを捨ててはおけないので、これまた大活躍で女房は取り戻す。ところが今度は、遠藤と遠藤の後釜を狙う新興やくざの成田三樹夫の対立抗争にまきこまれた海野が殺されてしまう。いよいよ激怒した田宮が二人をやっつける。

 端正な顔が、怒ったり、笑ったり、人なつっこくて、アバウトなこの鴨井大介こそ、田宮二郎のもう一つの当たり役だ。キザな三枚目の鴨井というキャラクターが、このようにカッコ良く見えるのは、ひとえに田宮二郎に全然似合わないからである。自分で自分をとことんコケにする覚悟があるから良いのだ。小細工で演ってんじゃなくて、心底、自分をパロディにできる度量をもつ者だけが、真に大人の喜劇を背負えるのである。

 この作品には鴨井の相棒しょぼくれ刑事・天知茂が出てこないのでちょっと寂しいけれど、悪の幹部(なんかショッカーみたいですな)成田三樹夫がいるので、ダイジョーブ。いきなり鴨井にボディーブロー食らってダウンしちゃうとこはちょと気の毒だけどね。しかし、みんな早死にの人ばっかだねえ。それはさておき。

 出所したばかりで、当然、田宮は丸腰。そうは簡単にコルトを手に入れられないと知った田宮が、刑務所仲間の玉川良一からコルトを買うために博打場にのりこんで、玉川のブロックサインで大勝する。女よりコルトが好き!なんてオタクな奴だよねえ。ま、田宮が女に本腰入れたら超モテるのは当り前。そんなことしたら共感できない男の観客が一斉に引いてしまう映画になっちゃうだろうからそれはマズイ、営業的に。

 遠藤の情婦・浜田ゆう子が田宮を引き付けている間に、海野が殺されたので、田宮は責任を感じまくる。そしてやけくそになって浜田を抱く。それを母性で受け入れる浜田、イイ女だねえ。モテない観客にも「うん、うん、わかるよ〜その気持ち」とホロリとさせて、さあ、後は田宮のドンパチだ。悪人を「殺さずに」サーッとコルトでやっつけて、彼はカッコ良く去って行くのである。

 昔の映画館は男性上位だった。だからこういう「ドンパチ映画」がウケたのである。現在の女性上位の映画館(名画座除く)で観れば、単純すぎて他愛もないストーリーなのだろうが、こういう映画の良さを分かってこそ、大人の女だ。男ってカワイイ、と、余裕で笑おう!

1997年11月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16