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ユメノ銀河


■公開:1997年

■制作:ケイエスエス

■監督:石井聰互(「ご」アテ字)

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:浅野忠信

■寸評:


 田舎のバスの車掌をしているトミ子・小嶺麗奈は、見かけとは違うハードな仕事に疲れていた。ある日、友達の女車掌が事故で死ぬ。友達が婚約していた同僚の運転手・浅野忠信は、車掌の間では殺人鬼という噂が立っていた。トミ子が踏切で線路に寝そべっている不思議な男を目撃した翌日、トミ子が勤めている電鉄会社に浅野がやって来る。トミ子は友達の仇を討つために、わざと浅野に接近する。

 と、このように書くと情念ドロドロの濃い映画を想像してしまいますが、そんなことはありません。ところで、人気あるんですねえ、浅野忠信。ま、確かにイイ男、ではありますわね。でも演る役は、軒並みアブノーマルだと思うんですけど、、。

 モノクロの画面に昭和初期をイメージ(あくまでもイメージ)させるような小道具がちらばります。ボンネットバス、クラシカルな制服、仁丹、木賃アパートのちゃぶ台。こういう清貧なアンティークというのが今はお洒落ということなんでしょうね、で、それらのたたずまいの中にぽっかりと浮かぶ、小嶺と浅野が、なんかものすごくシュールです。

 突然やってくるスリルが至福の「ときめき」に感じられてしまったヒロインの運命。かったるい日常が刺激的になるのなら、、という麻薬のような誘惑。ここんとこでしょうか、結構、最近の「フワフワ」した世情に、ピンと訴えかけるが込められているようです。

 浅野の役どころは、バス会社を転々として車掌とつきあいますが、飽きると殺してしまう噂がある謎の男。しかし、それらは証拠がないため、事件にされていません。小嶺は、踏切で接近している汽車を知らせず、バスもろとも、浅野を殺そうとしますが、絶命寸前の浅野は「だいじょうぶか」と言い残して死に、彼女は助かってしまいます。

 本当に彼が殺人鬼だったのか、小嶺には最後まで分からないのです。

 原作は夢野久作なんですけど、こういうわけのわかんない物語は、原作と比較してはたぶん、ダメなんでしょうね。映画と本は別物ですから、ここでは、小嶺麗奈と浅野忠信の印象的な三白目に注目しましょう。よく疲れないもんだと感心するほど、カメラ睨みっぱなしです。

 この映画には三人の少女が登場します。一人は小嶺、もう一人は死んでしまった友達、そして最後の一人は小嶺の田舎の同級生で、都会に憧れている少女です。田舎娘が都会で就職して、男に騙されて、殺される。三人の少女はそれぞれの段階を象徴しているわけです。

 三人を繋ぐのは「手紙」です。小嶺は死んだ友達から「浅野は殺人鬼かもしれないが、そうでないかもしれない」という手紙を死後、受け取ります。小峰は田舎の友達に「死んでもいい、愛していたい」という手紙を残します。

 小嶺のバスにトラックが接近した、と思ったら事故で死んだのは別の人で、と、思わせぶりなシーンが連続するものだから、アレ?と思うことが度々で、けっこう頭を使うのでちょっとくたびれてしまいました。

 ノスタルジックな情景が、SFっぽい雰囲気で、さすがに雰囲気を盛り上げるのが上手い監督ですね。最近、情念の薄い映画にはとりあえず、浅野忠信を出す、みたいな風潮があるので、そこんとこは、もういいかげん食傷気味なんですけど、それ以外は、あっさり風味のパラドックスが心地よい映画でした。

1997年10月30日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16