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わんぱく王子の大蛇退治


■公開:1963年

■制作:東映動画

■監督:芹沢有吾

■助監:

■脚本:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:住田知仁(声)

■寸評:血のでないアニメ 。


 動物たち(狸・久里千春)と遊んでいた元気な少年スサノオ・住田知仁は母の死に衝撃を受け、大暴れした挙句に母を追って黄泉の国を目指す。途中、数々の冒険をして最後に八岐大蛇(やまたのおろち)と戦うアニメーション映画。

 黄泉の国=死者の国、天早駒(あめのはやこま)=ペガサス、クシナダ姫=アンドロメダ、 八岐大蛇はアンドロメダを喰いに来る海獣。神話伝説というのは良く似ている。元は同じで伝わっていくあいだに土地の伝承伝説とうまくミックスされているんだろうけど。

 リアルなアニメも良いけれど、大日本インキの色見本「日本の伝統色」(ここでデザイン関係の方はうなづいてください)みたいな渋い色調とデフォルメーションされた背景とキャラクターがこれほどまでに血脈の通った表現に結実するというのは素晴しいと思う。これに伊福部昭の荘厳な楽曲がつき、さらに作品は崇高な輝きを増す。

 母親の死という事件が子供の心に抱かせたメランコリーが、数々の困難から少年を奮い立たせる勇気となり一丁前に恋人を救うために体を張る=大人になるというストーリーは分かりやすくて清々しい、男の子はこうでなくちゃいけないよ。絵はひたすらシンプルに、メカメカしいアニメを見慣れている今だからこそ、この作品は新鮮で感動的。

 そしてなんといっても圧巻は八岐大蛇との対決シーン。操演のキングギドラや空気圧の八岐大蛇(「日本誕生」参照)でも分かるとおり蛇や龍ってのは実写だととても難しい。「ネバーエンディングストーリー」のファルコンは論外。このアニメでは酒瓶を取り合ったり、酔っ払ってからんだり(文字どおり)という、ちょっと艶かしい感じすら覚える蛇のアクションが素晴しい。「ファンタジア」の首長恐竜の影響が色濃いのかもしれないけど。

 八岐大蛇の首が天早駒を追って縦横無尽に天空を駆け巡る。大蛇がまさに噛みつこうとして十重二十重に追う、追う!その鼻先を間一髪でかわずスサノオと天早駒。ゆったりとした首の動きと素早いアクションの緩急の絶妙さ!これが単純なアウトラインと、穏やかな色調のみで描かれるのだから凄いよね。CGじゃないもんね(当然だけど)。リアルな破壊や流血なんて全然ナシ、殺伐としないアニメは心安らぐなな。

 戦いに破れた大蛇が地上へ落ちると、荒涼としていた大地が途端に花が咲き乱れる美しい場所になる。大蛇の死骸は次々に小川のせせらぎになったり、小さな滝に姿を変えてしまう。恐ろしく醜い異形の怪物が昇天し、平和とやすらぎの光景に変化するシーンの美しさ。そして「幸せの国はおまえのすぐ傍にある」という母親の声に、愛する人と共に生きる決意をする主人公。ああ、なんてロマンチックなんだ!

 これ、大スクリーンで今すぐ観たい!言い忘れましたがスサノオ役の住田知仁は「安寿と厨子王」と同じく風間杜夫さんです。

1997年08月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16