霧の子午線 |
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■公開:1996年 |
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俗に女優は四十を過ぎたらロクな役は来ない、と言われる。本作品の主役二人は言ってみれば一昔前の宝塚の専課みたいなもんである。つまりブランドっちゅうことね。 新聞記者の岩下志麻には高校生の息子・山本耕史がいる。ちぎり絵作家の吉永小百合と岩下は学生時代からの親友。デモの時にはゲバ棒担いで「安保粉砕」を叫んだ同士。吉永はクローン病にかかっていて余命いくばくもない。吉永は岩下を頼って北海道へ移り住む。岩下の紹介でカルチャースクールの講師になった吉永はある日、岩下の恋人・玉置浩二に出会う。吉永に一目惚れした玉置は取材の帰路、吉永を抱いてしまう。 岩下の息子の山本は受験勉強のイライラから父親のことを話したがらない母親に辛くあたり、小さい頃から憧れていた吉永に愛情を求める。吉永は山本の父親はかつて自分と岩下が共に愛した全共闘の闘士・林隆三であると告げる。吉永の病状の悪化を知った山本は岩下の元へ帰っていった。岩下は林が住んでいるというノルウエーへ旅立つ。その後を吉永小百合が追う。 ゴージャス、実にゴージャスだ。小百合ちゃんとお志麻さんの顔合わせなんてスゴすぎる、って別に年齢のことじゃあないですよ。暗に言ってる?うん、そりゃやっぱり。「八月の鯨」「午後の遺言状」そして「霧の子午線」(オイオイ並べるなよ)。 吉永小百合は早稲田の馬術部(ただし仕事が忙しくなったので1年で退部)だからいいとしても、岩下志麻と学生運動ってのがどうも納得行きません。彼女のイメージから「運動」という言葉はどこを叩いても出てきません。ここいらへんで、かなりミスキャストだよなあ、という感は否めませんね。やっぱくたびれてますよ、この二人じゃあ。年齢とかは関係なくて生命力みたいなものが足りない。キレイな顔の裏に秘めたドロドロ、みたいのは全然感じられません。 岩下と吉永を二股かけちゃう玉置浩二もうらやましいと言うよりはお疲れさまって言いたくなるほど。両大女優(って表現、なんかバカにしてる?)とベッドシーンがあるにはあるけど、なんだか母犬のおっぱいにむしゃぶりつく小犬という雰囲気を感じてしまいました。なんせ小百合ちゃんもお志麻さんも乳首すら出しませんもの、当り前?。シュミーズつけた熟女とスラックスはいたまんまの野郎とのカラミなんてどうしようもないでショー、です。 画がきれいな映画はそれだけで幸福になれるもの。これだけは声を大にして言いたい。さすが大女優の恋人・木村大作先生。とにかくシワ一本見え(せ)ない。やつれた吉永小百合でもシワシワに見えないのはすごい。紗かけてんの?それとも大林監督みたいにせわしない画だとか?とんでもないっす、ピントビシビシっす。単レンズ好きな木村カメラマンのフィルムの美しさを丁寧に使い切った画はとにかく一見の価値あり。平べったくなりがちの昨今の「テレビ向け」のライトとは月とスッポンだと申せましょう。 原作が小説(作者は女性)なので細かい描写はサビが効いていてうまいです。岩下が玉置の浮気を見破るシーン。玉置に会ってから、吉永の家に行きコロンを借りる。そのコロンをプンプンさせながら玉置の元へ行く。ビクビクする玉置。それを見て岩下は確信を深める、、。それにしても篠田監督以外の人が撮ると、どうしていつもこんなにコワくなるのかしら、お志麻さんて。 この映画に出てくる男共はとにかく情けない。岩下と吉永に挟まれて逃げ出す林隆三、給食の牛乳臭い山本耕史、優柔不断の玉置浩二。まあこの二人に対抗できるのは今や三国連太郎と津川雅彦ぐらいなもんだろうから致し方ないですかね。 印象的だったのは「私は子供が産みたかったのよ、あなた(山本)みたいな元気な子が、、」と吉永小百合がつぶやくシーン。女性(原作、脚本)ならではというのは少々陳腐な褒め言葉ですけど、これを吉永に言わせたいがためにこの映画を作ったのだとしたら、私はそれだけでこの作品を高く評価しますね。ココは良いですよ、吉永小百合の実生活が透けて見えて。 ノルウエーの教会で二人が踊るシーンは一見、宝塚風でしたが、惜しむらくは二人ともダンスがド下手なので幼稚園のお遊戯風になったのは辛かった。そしてその直後、帰らぬ人となった吉永。ノルウエーのフィヨルドの岸壁にたたずむ岩下志麻が両手を突き上げ、吉永の名前を絶叫するシーン。まるで巫女の雨乞いのような物々しさで一気に興ざめ。小百合ちゃんの絶命演技を木っ端微塵にしてくれました。 もう日本には大女優というのは出てこないんですかね。若さだけが珍重され、ベテランは脇へ脇へと追いやられたらみんなスグ辞めちゃうぞ!三田佳子じゃヌカミソ臭いし、名取裕子じゃ頼りないし、十朱久代じゃ神秘性がなさ過ぎる。こうなりゃお志麻さんと小百合ちゃんにあと十年くらいガンバッテもらうしかないか?メリル・ストリープとゴールディー・ホーンみたいに、ね。 (1997年06月01日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16