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静かな生活


■公開:1995年
■制作:伊丹プロダクション
■監督:伊丹十三
■助監:
■脚本:伊丹十三
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:佐伯日菜子
■寸評:ドブ掃除は父権の象徴。


 知的障害者のイーヨ・渡部篤郎には作曲の才能がある。妹のマーちゃん・佐伯日菜子はそんなイーヨが大好き。作家である両親・山崎努柴田美保子がオーストラリアへ長期旅行をすることになり、マーちゃんがイーヨの面倒をみることになった。イーヨに水泳を習わせることになったマーちゃんだが、、、。

 パトカーのサイレンが聞こえる度にイーヨが事件に巻き込まれたのでは?と心配するマーちゃんの姿は同じ境遇の人にはいたたまれない程リアルだろうし、そうでない観客(筆者含む)はせいぜい、大変だなあ、とか、自分の身内にそういう人がいない事に感謝するのが普通。だからマーちゃんと一緒に乗った満員電車で発作を起こしてフラフラするイーヨに「オチコボレ!」と怒鳴る女子中学生を笑う気にも責める気にもならない、ただ、切ないなあと思うだけ。

 たとえば障害者が性犯罪を起こす、奇怪なしぐさで周囲をビビらす(本人の意思ではなく結果的に)、などの「恐怖」を淡々と描く。だからちっとも「静かな生活」なんぞではない。もちろん深刻な事件はすべてイーヨ以外の人物が起こすのであるが、家族は常に「もしかしたら」という不安に苛まれているのだ。

 プールで知り合った青年・今井雅之は保険金殺人の犯人として疑われた過去を持ち、しかもその体験をマーちゃんの父に小説にされて、性格異常者として社会から追われたというとんでもない人物なのだ。マーちゃんはその事を知らずに彼に接近され危うく襲われそうになる。が、イーヨが彼と闘ってくれたのでなんとか助かる。

 障害者=天使っていう図式はなにせモデルが実在し存命中の大江光さんだし、監督の知り合いだからしかたないところだろうが、それにしてもモデル体型の渡部じゃあ、カッコ良すぎる。いくら「らしく」熱演しても脱いだらアウトだ、リアリティに欠ける。やはりここは本物のように小太り、色白、近眼、というルックスを再現できる役者にお願いしたかった。でも「花いちもんめ」の時の千秋実みたいにリアル過ぎても困るが。

 成瀬巳喜男監督の映画「娘、妻、母」で森雅之が一生懸命下水の掃除をしているシーンが登場する。あれってやっぱり「男の仕事」なんですかね。本作品でも山崎努が「家長たる意義」を見い出すために励むのがドブさらいだし、それに失敗してスランプに陥るのだから、汚くて力がいる仕事としてドブ掃除の「家長たる意義」におけるステータスというのは高いのかもしれない。

 イーヨがドブさらいをやり遂げる日は来るのだろうか。ゴボゴボと沸き上がるヘドロがすごく印象に残った映画。 ところでイーヨ、って「くまのプーさん」に出てくるどんくさいロバのこと、湿ったところが大好き。

1997年07月31日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16