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制覇


■公開:1982年
■制作:東映
■監督:中島貞夫
■助監:
■脚本:中島貞夫
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:三船敏郎
■寸評:


 日本最大の広域暴力団の組長.三船敏郎がキャバレーで鉄砲玉・にしきのあきらに狙撃され瀕死の重傷を負う。医師・鶴田浩二の手当で一命は取り止めるが、この事件を発端に抗争事件が頻発。府警の本部長・梅宮辰夫の指揮で大がかりな壊滅作戦が実行される。

 三船の長男・高岡健二は中学の先輩・宮内洋の詐欺事件に巻き込まれる。ニセの契約書に捺印した妻・秋吉久美子が責任を感じて自殺。若い者頭の菅原文太は幹部の若山富三郎と反目しあい、組も分裂の危機に見舞われる。裸一貫で組を興した三船に長年連れ添った妻・岡田茉莉子は家族と身内を守るべく組長の代行をつとめる。

 主人公が山口組の田岡(劇中は田所)組長をモデルにしていることは鮮明。大阪が舞台のくせに若山富三郎以外はあまり大阪弁を使わない。三船の大阪弁ってちょっと聞きたかったけど、全然なかった。

 撃たれた三船が一度は回復するが孫と遊んでいるうちに心臓発作起してポックリ。これは和製「ゴッドファーザー」なのだ。日本のやくざ映画では珍しいファミリーもの。「極道の妻たち」の先駆け的なこの作品の原作は志茂田景樹センセイ。中井貴恵名高達郎の結婚式のシーンにちゃっかりゲスト出演を果たす。

 「ゴッドファーザー」的なシーンはまだある。やくざを嫌って気質として生きようとしている長男の高岡健二はさしずめアル・パチーノか。三船を撃ったにしきのあきらは、わざわざ女装して雲隠れしていたが素行が悪いので(クスリじゃありませんよ)、もてあました対立組織の手によって証拠隠滅のために首にロープを巻かれ左右から 二人がかりで締め殺される。挙句に川に捨てられ背中にウジ虫(本物)が這う溺死体として発見される。

 三船のところへ奉公に上がっている、不器用で血の気の多いちんぴらの清水健太郎は柄に似合ってなかなか良かった。中井に惚れているがそこは身分違いを納得していて、内縁の妻・大信田礼子もいることだし、手を出さず。名高(新聞記者)の出世の邪魔になると考えた中井が一人でタイに出発する時、名高の愛情が本物だと分かると清水は無言で名高をキャデラック(清水は運転手なので)に乗せ、一路空港へ。無口な恋のキューピット役をこなすのだった。

 なにせオールスター映画だから他の出演者もそれぞれ見せ場があってグー。中でも北陸の田舎やくざの岸田森。これが遺作なのだ。若いねーちゃんを横に乗せ渚ドライブウエイ(かな?)をジープでかっ飛ばす。雨の中、刺客と泥まみれになって対決し、至近距離から撃たれ、片手を天に伸ばして壮絶死。アナーキーでパワフルな死にっぷりの見事さ!惜しい人でしたな。

 他にも曽根晴美小田部通麿待田京介品川隆二小林旭鹿内孝丹波哲郎小池朝夫寺田濃、と出るわ出るわ。これで名和宏が出てたらもう完璧に「仁義なき戦い」状態。これだけでなく役名はないけどそこはそれ東映のコワモテ連中がわんさと登場するので、画面が濃すぎてゲップが出そう。

 警察だって怖いぞ!府警の梅宮辰夫なんて角刈りにソリが入っている。いるか!そんなの!おまけに部下が今井健二。どっちがやくざなんだかわけわかりません。 そらま、三船敏郎のいるほうが善玉(ってのもナンだが)ってことだから。

 三船敏郎がやくざだったのはあの「酔いどれ天使」以来では?鶴田浩二とも久し振りの共演だ。三船と張り合うために東宝へ入ったのに部が悪かったため東映へ移籍した鶴田浩二。東映のフレームの中ではやっぱ三船は馴染まない。鶴田浩二のような陰湿(けなしているのではなくて)な情念が感じ取れないからだ。三船敏郎にはカラッとした陽気さこそが似合うと思う。

 そこんところをカバーしたのが岡田茉莉子の情念たっぷりの存在感。これは最近の鰐淵晴子にも見受けられるが、茉莉子さんは晴子さんのように可憐ではないので、三船の死後、組を切り盛りすべく三船の代弁者としてカリスマ性十分、組長の「ことば」だと偽って後継に文太を指名する。ところがどっこい、文太が持病の腎臓を悪くして刑務所でポックリ逝ってしまったから、さあ大変。

 映画は組のために奔走する岡田茉莉子の後ろ姿でエンドマーク。このへんのドタバタ加減がどうも尻切れトンボだったのだが、原作ではどうなってるのかなあ。家族に視点を移したところや主演がラテン系の三船だったために、東映のやくざ映画らしさを期待して見るとかなり裏切られる映画だ。

1997年07月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16