人斬り |
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■公開:1969年 |
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幕末の土佐藩。武市半平太・仲代達矢ら勤皇派は藩の重役を暗殺し京へ上る。武市は以前から目をつけていた腕の立つ貧乏武士の岡田以蔵・勝新太郎をヒットマンとして養成し長州、薩摩の両藩とともにテロ活動をスタート。以蔵は人殺しの腕だけでのし上がれる世の中が来ることを信じ武市の命ずるままに次々に邪魔者を殺害した。 武市は大望のためには手段を選ばない策略家。その正体にうんざりした以蔵は一度は武市を裏切るが生活に窮し再び、暗殺を請け負う。 薩摩藩に剣の達人の田中新兵衛・三島由紀夫がいてアウトロー同志、以蔵は心を通わすが武市の陰謀の犠牲になった新兵衛は暗殺の濡れ衣を着て自害した。役人ともめ事を起こした以蔵は投獄される。 岡田以蔵はミステリアスな人物である。腕だけを頼みにして、実際メチャクチャ強いのだが、活躍し時代の波に翻弄され、闇に葬られたその人生が多くの創作者のイメージをかきたててきた。愛すべきアウトローの代表的な人物として描かれることが多いようだ。無学で粗野だが実直で一途。曲者俳優、勝新太郎を得たこのキャラクターはますます愛すべきひょうきんさを加味して大変魅力的。 人を斬ったことがなかった以蔵は武市に言われるまま重役暗殺の現場に居合わせる。「天誅って言えば人を斬れるのか!」と人斬りの魅(魔)力にとりつかれる以蔵。以蔵は女も大好きだ。遊女・倍償美津子、「あの女を抱けるようになるなら」と以蔵をとりこにするのは公家の娘。身分も財産も学問もない男が歴史の断片に遮二無二食らいついてゆく様子がエネルギッシュに描かれる。 武市の裏切り。スター扱いされ始めた以蔵を疎んじた武市が投獄された以蔵を見て「こいつは以蔵の偽物、本物はこんなに卑しい男ではない」と申し出て以蔵は名前を剥奪され無宿者として土佐に戻る。虚無、時々、お茶目、が仲代達矢の持ち味だが、ここではいささかワンパな気もするが以蔵の引き立て役としての武市を嫌味ったらしく演じる。 名前を剥奪しただけでは武市は安心できないのだった。彼は旧悪が発覚するのを恐れて、以蔵を慕っていた若い下級武士・山本圭に毒酒を持たせて以蔵の住むあばら家へ向かわせる。 虚弱で過激で理屈っぽい役をやらせたら天下一品の山本圭は以蔵の藩を思う気持ちに打たれて毒酒であることを明かす。だがすでに死を覚悟していた彼は一緒に杯を重ねていた。そして「武市先生は実は毒なんか入れてなかったんだ!」とぬか喜びした刹那、遅効性の毒に苦しんで死ぬ。相変わらず純粋でオマヌケで幸せなヒトだ。以蔵は井戸の水をあおって強引に胃洗浄をし、助かる。 ついに武市の企んだ暗殺のすべてを告白した以蔵。せめて村祭りが終わるまでと懇願し、一目、親友の坂本竜馬・石原裕次郎に会いたいと願うがそれもかなわず、磔にされる。「これでやっと武市と現世と縁が切れる」以蔵は満足気に死んでいく。 豪快な殺陣のシーンは音楽抜きの効果音のみで相変わらずの重厚さ。一晩に40キロを走破する以蔵の走りは土煙を上げてまるで漫画だ。カツシンって本当にアニメのキャラクターそのまんま。CG無用のその表情の豊かさは現代では貴重なのでは? そして筆者がはじめてその肉声を聞くことができた(市ヶ谷駐屯地の演説除く)三島由紀夫(本物だよ!)。武骨で寡黙な殺し屋が公家の暗殺現場に放置されていた自分の刀、それは以蔵が武市の命令で置いて来たもの、を見せられて、己がすでに無用の存在となったことを悟ると一瞬の気合いと共に、片肌脱いで見事な肉体美を披露して(ここが「らしい」ところですが)から切腹する。後年のあのショッキングな事件を予感させるシーンであった。 以蔵が投獄される牢屋の牢名主が萩本欽一と坂上二郎のコント55号。欽ちゃんがねじけて卑屈な小悪党を少ないシーンながら上手く演じる。浅草の軽演劇出身者はさすがだなあとしみじみ感心。冒頭暗殺される重役は辰巳柳太郎、京都の狭い路地で勝と対決するのはマジで居合い抜きの達人にして現在では歌舞伎俳優の訓練学校で殺陣も指導している伊吹総太郎。新国劇コンビの殺陣は美しさとケレン味たっぷりでこの作品最大の見せ場。 血と闇と汗と埃と。五社英雄の美学が思う存分スパークした、勝新太郎のワンマン映画。 (1997年06月22日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16