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女真珠王の復讐


■公開:1956年
■制作:新東宝
■監督:志村敏夫
■助監:
■脚本:相良準、松木功
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:前田通子
■寸評:日本初オールヌード。


 なんでもかんでも映画のタイトルに「女」とか「美女」とつけりゃあいいと思っていたフシが新東宝には、ある。それは映画館に来る客の大半がヤロウだったからだ。時代だねえ。

 東京の大手商社の重役・藤田進の秘書・前田通子は、若手社員・宇津井健と婚約している。藤田が長期出張することになり、藤田は出張前に静養中の社長に重要書類に捺印をしてもらうように宇津井に命じる。宇津井が出向くと社長から「藤田は信用できないから出社してから判を押す」と告げられ宇津井は帰京。

 宇津井が帰った直後、社長は宇津井に変装したゴロツキ・丹波哲郎に殺される。丹波は東京へとんぼ帰りし宇津井の会社の小遣いさんを射殺し金庫の金を奪う。宇津井は無実の罪で逮捕される。船上で藤田から事件を聞いた前田は落胆するが、すべては藤田の差し金であった。株でしくじった藤田が宇津井に濡れ衣を着せ、会社の金を横領し、あまつさえ彼は前田の肉体をも狙っていた。

 船の上で藤田が前田を襲い、抗った前田は海に転落してしまう。前田の死体はついにあがらなかった、、。誰もが前田の死を信じていた二年後、死刑が確定した宇津井が刑務所から脱走した頃、アメリカから真珠の養殖で富豪になった謎の美女が来日する、、。

 はい、ここでカンの良い皆さんはこの後の筋は丸分かりなので割愛します。この、女・モンテクリスト伯の復讐記。この映画は日本初のオールヌードが登場する記念碑的な作品でもあります。

 1年前くらいに漂着したはずなのに、昨日床屋に行ったばかりのようなヘアスタイルの天知茂とその義理のジジイを除いて、いずれも野獣と化した男達。「こう、グッと胸を揉んだらどうだ?」「お、おらがやるだ!」なんというお下劣かつあからさまな台詞でしょう。そんな危険な連中に囲まれているのになぜか前田通子はヒラヒラのビキニ風の水着、だったりするのです。

 こんな女性のピーンチを誘発するような映画を見るにつけ、当時の男尊女卑は映画の制作環境が、、というより某名物社長の人となりが手にとるように窺い知れるわけです。

 前田は水泳が得意で、泳いだ後、岩場の上で、しかもとても目立つところで素っ裸になって水着を洗濯(海水で)したりするので、男達の性欲はとうとう大爆発。穏健派のジジイをボッコボコに殴り前田の体の奪いあい。故郷にフィアンセを残している天知だけは女に飢えていなかったので前田を守ろうとします。最後に残った凶悪な若者も、天知の活躍でうず潮に呑まれます。

 襲われまくったにもかかわらずやさしい前田は、若者を助けようと海に飛び込み、偶然に野生のあこや貝を大量に発見し、天然真珠をゲット。血だるまになったくせにちゃっかり生きていたジジイと天知(他は全員死亡)と一緒に渡米し、身分を隠し億万長者になって帰国した、、のでした。

 藤田社長に雇われている殺し屋が丹波哲郎で「いや〜この女があいつに似てると思っているんでしょ?社長。まさか、あーたは信じるんじゃないでしょうーなー、ぬあっはっはっはっ」と、今と変わらぬ自信満々の、そして偉そうなチンピラ・丹波が笑えます。おまけに役名が「野口吾郎」!

 浜辺でのびている前田通子を天知茂がかついだとき、お尻の割れ目がクッキリと見えてしまい、昨今のアダルトビデオに比べれば、その奥ゆかしさ、というか「チラリズム」がかなり新鮮でした。前田通子が万里昌代や三原葉子のように、いかにも!って感じの女優だったらまだしも、和服が似合いそうな清楚な美人なので、その「やること」のスゴさとのギャップに驚きます。

 金に物を言わせて、女真珠王として前田通子が亡き母の墓前に復讐を誓うところとか、前田が天知と協力して頭脳プレーで藤田と丹波を倒しての無実を証明する後半なんか「どうでもいい!」という主張がとてもクールな映画でした。

1997年05月28日

【追記】

前田通子さんから伺ったお話ですが、当時、天知茂さんはどちらかというと悪役が多く、本作品が初めての善玉だったそうで「印象深い作品です」とコメントしたそうです。

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16