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四谷怪談


■公開:1956
■制作:新東宝
■監督:毛利正樹
■助監:
■脚本:小国英雄、田辺虎男
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:若山富三郎
■寸評:デブの伊右衛門。


 若山富三郎は生涯に2本の四谷怪談映画に出演している。普通、1本で十分だと思うが、さすがに噂の祟りというやつも若山先生にとってはどーってことないってことですかね。

 民谷伊右衛門・若山富三郎はれっきとした武家の母・飯田蝶子と百姓の間に産まれた。その出生の秘密を女房の岩・相馬千恵子の父親に知られ、「出自の卑しいおまえに娘はやれぬ!」と罵倒されて仲を割かれる。激情した伊右衛門が岩の父を斬る。その場に居合わせたのが下男の直助・田中春男(下品で絶品!?)。伊右衛門は岩に事実を伏せたまま母を連れて江戸へ。その後を岩の妹・袖と直助が追った。

 ストーリーは原作に忠実だとされている。読んだことないけど。今回の伊右衛門は心底、岩を愛していながら圧倒的な母の支配から逃れられずにいる、ちょっとマザコン気味の熱血漢タイプ。陰鬱になりがちなこの役の柄だが、本作品ではただの陽気なおバカ。これは若山富三郎のキャラクターにはドンピシャか。

 相馬千恵子はちょっとはれぼったい一重瞼がかわいい大柄な美人。戦前から活躍していたのでこの作品が制作された頃は34歳になっていた。父の仇とは知らず夫に尽くす姿はかいがいしくてその後の恨みのボルテージを上げるのに十分なタメを生んでいる。宅悦から真相を知らされ「畜生!」と、初めて夫を罵る時の迫力は元が地味なだけにアタック力が強い。

 すべては金のため、飯田蝶子が率先してお梅との縁談をすすめる。岩の毒殺も彼女がダンドリをつけるのだ。昔の時代劇ではお歯黒が当り前だったけど最近の時代劇じゃあとんと見ませんねえ。飯田蝶子はお歯黒ばっちりで最初は戸惑ったけどなかなか上品なものだなあと思えてくる。「おたべ人形」が歳寄ったらさぞや、と思わせる飯田蝶子。「若大将」のおばーちゃんに慣れていると、今回の下賎な悪役の飯田蝶子は新鮮だ。

 この映画はめぼしい特撮はないのにとにかくコワイ。岩の顔が崩れるシーンも細かなカットを繋いでメイクアップの変化だけ。なのに怖い、超怖い。ワンカットの中で顔の正面から次第に下方へライトが移動し、徐々に不気味になっていくように見せたりする工夫。今ならモーフィングかなんかで済ませるんだろうが、シンプルな影の変化でも、これほど激コワな効果があるのだなあと再認識。

 幽霊達は墓石の陰からドロロ〜ン、戸板に打ち付けられた死体が目をカッと見開く、カメラがすーっと寄るといきなり堤灯がカパッと割れて口みたいになる、額がザックリ、血がベッタリ。まるで遊園地のお化け屋敷さながら。モノクロの画面(相当フィルムがヨタっているのだが)で繰り広げられるおどろな世界はお約束なのだが、その素朴さがリアルに怖い。大仕掛けのハリウッド映画にはない手作り感覚が幼い頃の胆試しを疑似体験させるようだ。

 中川信夫の「東海道四谷怪談」は撮影のアイデアや美術スタッフの技量の見事さでとても有名なので、この作品は少し割を喰っているがはっきり言って本作品のほうが怖さでは上回る。若杉嘉津子の西洋風の美人幽霊もすごいけど相馬千恵子の純和風幽霊のほうが、その醸し出す陰湿さが遥かに上。

 そして若山富三郎。目張りがビシビシの白塗。お梅との婚礼で舞う能の見事さでも分かるようにやはり芸事の基礎がある人は殺陣が流麗だね。東千代之介までいくとちょっと行きすぎだけど、若山富三郎には体力もあるし迫力満点。墓場で暴れるシーンは重戦車さながら。身の丈ほどの墓石がぶっとぶんじゃないの?と心配するほど元気一杯。終盤、岩と宅悦の亡霊(ピアノ線で吊った火の玉はちょっと情けなかったけど)に追い詰められ役人達に囲まれて大暴れ。最後まで悩むことを知らない元気な伊右衛門ってのも珍しい。

 怪談映画は新東宝のオハコだけど四谷怪談なら中川信夫とならんでこの作品はもっと評価されてもいいと思う。公開されるチャンスも少ないみたいだし。あまりにもコワすぎるからテレビじゃ難しいかもね。オーソドックスなほど日本の怪談は怖いんだという事が実感できる映画だった。

1997年06月28日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16