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細雪


■公開:1983年
■制作:東宝
■監督:市川崑
■助監:
■脚本:市川崑
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:佐久間良子
■寸評:


 昭和十三年、舞台は大阪の船場界隈。左前になった商店の跡継ぎは美貌の四姉妹。長女・岸恵子は銀行員の婿養子・伊丹十三を迎えて本家を継いでいる。次女・佐久間良子も百貨店勤務の婿養子・石坂浩二と結婚していて、三女・吉永小百合は電話恐怖症、末娘・古手川裕子は人形造りをしながら自立を目指す。谷崎潤一郎の原作では末娘が主役ですが本作品では三女の目を通して進行します。

 冒頭、岸、佐久間、小百合ちゃん、古手川が見事な和服姿で満開の吉野の桜の下を散策する姿はため息の出る美しさ。画面に登場する観光客ですら指をさして見物しているほど。呉服メーカーの三松が全面的にバックアップしており、ちょっと鼻につくんですが、美術監督に村木忍を得て盛大な美術費の凄味に最後まで圧倒されます。

 長女の岸恵子。特別出演なので出番は少ないですが、シンの強さと繊細さをあっけらかんと演じてます。家族を守る、家系を守るという重責ゆえに分家の佐久間と言い争ったりもしますが最後は我を捨てて、夫に従い東京へ行きます。タカビーでありながらどこかネジがゆるんだところがあるので、なかなかカワイイ昔のお嬢さん。岸恵子にはぴったりな役所。

 次女の佐久間良子。本家から預かった妹の小百合ちゃんと夫・石坂浩二の浮気にやきもきしながら、おっとりしている姉の岸を助け、売れ残りの小百合ちゃんの結婚のために奔走し、自由奔放な古手川をやさしく見守る。石坂と小百合ちゃんの「現場」を目撃してパニックを起こし、台所の京野菜を片手で握りつぶすシーンは迫力ありすぎ。その勢いでヒラミキさんとも、、と女性週刊誌のようなアタマになりそう。

 三女の吉永小百合。リリカルな小百合ちゃん、見合いの相手をなんだかんだ言って断わり続け(鮎研究家の小坂一也、子(仙道敦子?)持ちの細川俊之ら)、最後にコスモポリタンな華族・江本猛紀をゲット。この映画の小百合ちゃんはすごくヤな女。ぼさっとしているよに見せて実は見合い相手、たしかにロクな奴はいないが、をじっくり観察し「鮎と一緒にするな」「遠くへ行くのは嫌だ」「当日デートの予約するような奴はロクなもんじゃない」などストレートな理由で断わり続ける。他の姉妹のゴタゴタも冷ややかに見つめるだけ。実は一番したたかで粘り腰の女の人。小百合ちゃん空前絶後の「嫌味な笑顔=冷笑」演技にも注目です。

 四女の古手川裕子。貴金属商店のボンボンと写真家・岸部一徳(まだコワレていない頃の)との恋愛を経て実直な辻萬長(つじかずなが)と小さな所帯を持つ。奔放だから傷つきやすい。しがらみから逃れようと一途に走る姿は爽快でイイ味。

 戦前の日本にいた、あるとても豊かな人々の「最後の四季」。

 京都の自然描写が美しいのと小百合ちゃんと横山道代に手を出すスケベなへーちゃん(石坂浩二、本名は武藤兵吉)が見物の文芸作品。

1997年07月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16