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海兵四号生徒


■公開:1971年
■制作:大映
■監督:黒田義之
■助監:
■脚本:佐々木守
■原作:
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:渡辺篤史
■寸評:


 「びんた」は平手でやるものではなく、グー(げんこ)でやるものらしい、軍隊においては。

 太平洋戦争前夜、江田島の海軍兵学校に入学した四号生徒(1年生)が先輩に叱咤激励されながら一人前の兵士となっていく様を描いた映画。

 厳しい訓練の描写はまるでスポ根映画。ただし上級生の説教がびんたであるところが、かろうじて軍隊ものらしいところ。出自が様々な同期の桜が時には対立しながら、脱落する者も出るのですが、励ましあってたくましく成長していきます。「トップガン」の海兵学校版だと思ってもらえればよろしかと。間違っても「陸軍残酷物語」=「フルメタルジャケット」の路線じゃありません。

 とにかく弾の一つも飛んでこないので戦時中であることをふと忘れてしまいそうになりますが、時々、テロップとナレーションで説明される戦況報告で、時代背景をなんとか思い出します。日本本土への爆撃があったのは終戦近くになってからのことですから当然ですけど。訓練風景は勇ましく、少しも悲壮な感じはしません。

 主人公が渡辺篤史という、人生についてあまり深刻に考えこむことのなさそうなタイプだったので余計にそう見えるのかも。戦争映画らしさには「丸刈り」という現代では非日常的なヘアスタイルになる、という要素もあると思います。兵学校だから「丸刈り」なんじゃなくて、渡辺篤史の場合はいつもの髪形なのでやはり「らしく」ならない。学園ドラマなんですね、この映画は。

 実際に鉄砲撃つシーンもないので、一連のシゴキが「人殺しのための訓練」に見えないわけです。時折、先輩達が姿勢を正して「天皇陛下」と叫ぶところを無視すると、人格改造セミナーのワンシーンにも見えてしまいます。

 クライマックスがクラス対抗の「競泳大会」というのもカレッジ度を上げます。エースが肩を脱臼しながらも力泳したり、カナヅチたちがバタバタしながら必死に泳ぐところがこの映画最大の盛り上がりです。う〜ん、やはり戦争映画ではありません。ヒーローのいない若大将映画みたいです。

 一号生徒(最上級生)の卒業シーン。軍刀を振り別れを告げる卒業生に帽子を振る下級生。卒業生はこれから戦地に赴くわけなので、これが今生の別れになる人もたくさんいます。が、どこまでも青い空、のどかな海、どう見ても戦争映画ではありません。静かです、穏やかです、平和です。

 この直後、テロップがいきなり終戦(敗戦)を告げます。米軍の捕虜になって生還した佐々木剛は、渡辺篤史の同期の弟ですが、兄(水泳大会のエース)はすでに戦死しており、彼の母は弟に自決をすすめます。母が渡した短刀を佐々木の手から奪い取り、海に投げ捨てる渡辺篤史。戦後の日本を再建するためにガンバロウ!みたいな感じで映画は終わります。そこに「海軍兵学校の卒業生の殆どは戦死した」という、これまた無味乾燥としたテロップが現われます。

 自衛隊のピーアール映画に見えないこともないですが、たぶん、やってることは当時とあんまり変わってないんじゃないですか?褌いっちょで遠泳大会とかカッター訓練とか。

 監督が「大魔神」の特撮監督の黒田義之だったので、ゼロ戦とか軍艦とかばんばん出てくるのかなあ(もちろんミニチュアで)と思ったらさっぱりだったのでちょっと期待外れでした。まるっきり戦後生まれで、軍隊ものといえば陰惨で悲壮な残酷物語か特撮映画だという思い込み(スリコミ)が強い筆者にとってはどこまでもサワヤカ青春映画にしか見えませんでした。

 ま、佐々木守のホンだからしゃーないってことですかね?

1997年08月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16