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怪談 蚊喰鳥


■公開:1961年
■制作:大映
■監督:森一生
■助監:
■脚本:国弘威雄
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:船越英二
■寸評:


 常盤津の師匠・中田康子に惚れていた按摩・船越英二が急死する。数日後、死んだ船越にそっくりな按摩・船越英二(二役)が現われ、兄が師匠のことを心底好きだったと告げる。挙句に兄からいろんな話を聞いているうちに自分も師匠に惚れてしまったと告白する。ところが師匠にはやくざな情夫・小林勝彦がいた。

 船越英二は中田康子の歓心を買うために五十両の大金をちらつかせる。最初はおどおどしていた船越が中田が金に目が眩んだのを確認すると、急に図々しくなる。おまけに船越は大いびきをかく癖があり、中田は常盤津の稽古の最中、このイビキにかなり悩まされる。

 中田は、金はほしいが風体が不気味で下品な船越が生理的にイヤ!そこで彼女は小林勝彦と組んで船越を毒殺しようとする。アンコウ鍋に少しずつ体がマヒする毒を入れる。船越が目が見えないのをいいことに中田と小林は食べているフリをして、船越が倒れるのを待つのだが、これがなかなか死なない。

 だんだんイライラしてくる二人を少し疑った船越だが結局、毒にやられ意識を失ったところを小林に井戸へ放り込まれてしまう。とことん性悪の小林は年増の中田に金目当て近づいたものだから、今度は中田を殺そうと企む。

 兄の按摩の幽霊を見たという中田を狂い死にさせようと、芝居小屋の男に按摩の格好をさせて師匠の自宅へ呼んでおく。これを見て驚いた中田康子が逃げる途中で井戸に落ちる。二人の遺体が見つからないように細工した小林が井戸から出ようとしたとき、金を貰いに来た幽霊役の男と井戸端ではち合わせしてしまい、自分で仕組んだにもかかわらず胆をつぶした小林もまた井戸へ落ちてしまう。

 井戸から引き上げられた三人の死体を前に、幽霊役の男の自供からすべてを知った役人は「げに、恐ろしきは人の欲だ」とつぶやく。

 この映画に登場する本物の幽霊は師匠恋しさのあまり、別れを告げに現われた兄の按摩だけである。だから正確には怪談映画とは呼べないのかもしれないが、本物の幽霊より生身の人間のほうがよっぽどコワイということだ。

 「盲獣」のときの変態マッサージ師といい、本作品の色欲按摩といい、世間ではお人好しの二枚目の印象が強い船越英二の金看板を溝に捨てるも同然のキャラクター。だが実に巧い!座頭市のユーモラスなアクションとは違って、なかなか艶っぽい按摩さんである。船越英二のこの熱演はもっともっと評価されていいと思う、本人はヤかもしれないが、、。

 実生活で大映社長・永田雅一の愛人と噂された中田康子の演技を超越した迫力が堪能できる。それにしても中田康子って大映では怪談映画への出演が多くないか?もちろんミュージカルもどきのヘンテコな映画もあるんだが、、中田が望んだのだろうか?そっちのほうがよっぽどミステリーだと思いませんか?

 船越英二の意外な姿が堪能できる怪談映画。で、蚊喰鳥(かくいどり)ってのはコウモリの別称。これは按摩のことなのだろうか、それとも、金や色欲に目が眩んで仲間や恋人を平然と裏切る三人全員のことなのだろうか。蚊喰鳥、見終わってからこのタイトルの良さがしみじみと実感できた。

1997年08月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16