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ゴキブリたちの黄昏


■公開:1987年
■制作:キティフィルム
■監督:吉田博
■助監:
■脚本:吉田博
■撮影:
■音楽:
■美術:
■主演:浅野温子(声)
■寸評:浅野温子も古尾谷雅人も丹波哲郎もみーんなゴキブリ!


 キティフィルムが目指すものは大人のファンタジーである。これはアニメと実写を合成したゴキブリ達の純愛物語、宇宙人(だいじょうぶマイフレンド)や怪人(ア・ホーマンス)やゴキブリにファンタジーって言われてもなあ。

 無精なやもめ男・小林薫の部屋はゴキブリ達のパラダイスだ。ゴキブリのリーダー・柳生博(声)は人間との信頼関係を一族に説き、ゴキブリたちは平和に豊かに暮らしていた。ある日、負傷したヨソ者ゴキブリ・古尾谷雅人(声)が小林のアパートへやってくる。彼は原っぱの向こうのアパートに住んでいるOL・烏丸せつ子の部屋の仲間を救うべくやってきたのだった。

 古尾谷の後を追った美ゴキブリ・浅野温子(声)は許婚の坊ちゃんゴキブリ・宮川一朗太(声)を残して、原っぱを決死の覚悟で横断。烏丸は大のゴキブリ嫌い。今日も大量のゴキブリ相手にキンチョールを片手に大奮闘。浅野ゴキは自分達の世界とはまったく違う、人間とゴキブリが対立している異常な世界(こっちがフツーだと思うが)を目にする。そこはゴキブリ達にとってはまさに地獄なのだった。

 このアニメはゴキブリを如何に「みなし子ハッチ」(え?みなし子って放送禁止用語なの?)並みに可愛くするかという点に工夫の後が見られる。まず手足(6本、ギザギザ付)は手袋とブーツでカバー。極力、触角(ゴキブリのトレードマーク)を意識させないようにしている。でも音はアノ音なのだ。カサカサ、ゴソゴソ、、昆虫類が一切駄目な筆者は何度、スクリーンから目を逸らしたことか、、。

 まず声優の豪華さに目を(耳を?)見張る。軍隊ゴキブリの頭領・日下武、古老ゴキブリ・丹波哲郎、中年ゴキブリ・鳳圭助、ババアゴキブリ・北林谷栄、原っぱの野◯ンチ・佐々木つとむ(は、別にしても)。目さえ閉じればこりゃもうかなり豪華な布陣だ。ただしみんなゴキブリウ◯チなんだが、、。

 烏丸せつ子が小林薫のアパートで同棲を始めたからさあ大変。バルサン、キンチョール、ハエタタキ、はてはホウ酸ダンゴまで登場するゴキ対人間の壮絶なバトルが始まる。人間達に台詞は一切なし。足音などの生活音だけが大音響で再現される。つまり地上2センチメートル、ゴキブリ気分で映画を鑑賞できるわけだ。

 コキブリ仲間を助けるために勇敢にも烏丸のスプレーを持つ手にハシッと飛びつく古尾谷ゴキ!う、わー、あのトゲトゲ足の感触がよみがえるー。やめてくれー。

 小林&烏丸連合軍との戦いで古尾谷ゴキ浅野ゴキ宮川ゴキを助けるためにハードカバーの下敷きになって死に、宮川ゴキは浅野ゴキをかばってエアガンの標的となり粉々にされる。

 浅野ゴキは伝説のゴッドマザー・・北林谷栄ゴキの「声」に従い、囮になるフリをして一旦はスキ間から飛び出し、やられたフリをして、彼女を心配して飛び出した宮川を逆囮にしてアパートを脱出する。なんて女(雌?)だ。そして卵を宿した彼女は別の場所で再び種族を繁栄させるのだった、めでたしめでたし。(めでたくない、めでたくない)

 嵐の様な暴力にさらされる純粋な二人(匹)、恋人(ゴキブリ)の死、「戦火の恋」ってか?だがしかし、やっぱりゴキブリ、どうしても同情できん。ざまあみろ!古尾谷!宮川!浅野をブッ殺せ!なーんて字面だけだととんでもないが、、、だってゴキブリなんだもん。

 古老ゴキブリの丹波は偉そうに訓示を垂れてばかりいたが、一族の殆どが殺された後でノロノロと飛び上がり人間達に特攻。これが、な、なんと糞爆弾!!小林薫の顔面に、あのおぞましいゴキブリの糞をビチャッ!とひっかけて力尽き墜落するのだ。風情は「ヤマト」の沖田艦長だが、このクソ(文字どおり)ジジイ!垂れるのは説教だけにしろ!と叫びたくなるところ。

 どんなにカワイク描いても、イカす触角がピクピク動いたり、カサカサカサ、、という音がしただけで不愉快千万。で、結局なにが言いたかったの?ゴキブリだって地球の仲間なんだから共に栄えましょうって事なの?

 気味が悪いから、自分達に不都合だからと言う理由で他の種族を滅ぼしたり、耐性がないもんだから自分達の暮らしやすい環境を求める余り自然を破壊している、それが人間で、ゴキブリはそんなことしないぞ!というのは正解だと思いますけどね。

 ゴキブリ使ってエコロジー説いたって説得力ないよなあ、というのが実感。まあ擬人化された虫や動物に人間社会を風刺させるというのはよくある手口。人間が言ったらクサいけど犬や猫なら見てくれが可愛かったりするので素直に聞ける、でしょ?でも、ゴキブリってのはナシでしょう?

 だけど、どうなんでしょうねえ。実写で浅野温子や宮川一朗太や丹波本人が演ったら、と想像するとかなりどーしよーもない映画になりそうなんですよね、鼻白んじゃうだろうなあと思いませんか?。丹波とエコロジーなんて聞いたら即、「ノストラダムスの大予言」思い出しますもんねフツー(じゃないか?)。こういうのって役者としては複雑なんでしょうなあ「オマエが演るよりアニメ(しかもゴキブリ)のほうが良い」って言われて面白いわけないでしょうね、きっと。

 革のミニスカ姿の烏丸せつ子を地上2センチメートルから見上げる、、そういうシーンも一杯ある大人のための作品。

1997年06月05日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16