北陸代理戦 |
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■公開:1979年 |
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元裏日本の地域を指して「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師」ってすごいキャプションだよなあ、地元からクレームつくよな、フツー。 この映画を観た人はふと気がつく。おや?渡瀬恒彦はどこにいたんだろう?予告編にはばっちり映ってたのに渡瀬はいない。そう、実は人間キャベツ畑の撮影中にジープが横転し渡瀬恒彦は降板したのであった。いやあ死ななくてなにより、っつうくらいの事故だったらしい。 北陸の地元やくざの若衆・松方弘樹は実の父親・西村晃をリンチにかけて組の跡目をふんだくる。腹のムシがおさまらない西村は叔父貴・ハナ肇の采配で関西の暴力団と手を組み松方に瀕死の重傷を負わせる。回復した松方がハナを襲って刑務所へ。金沢の叔父貴・織本順吉の狂犬息子・地井武男も別の大手の暴力団と手を組んで父親を殺害し跡目を継ぐ。出所した松方は北陸に進出してきた二つの関西系暴力団を互いに戦わせながら全面戦争をくりひろげていく。 こういう映画は常に頭のなかに家系図や相関図を描きながら見ないといけないので大変です。関西系は新興勢力の千葉真一と古株の遠藤太津郎、幹部・成田三樹夫、それと名古屋の大ボス・天津敏。このあたりなんかもう出演者の訛で判断しないと出自と管轄地域がわけわかりません。野川由美子が松方弘樹を振り出しに、ハナ、遠藤と渡り歩くバーのマダムで、ふてぶてしい魅力いっぱいです。野川の妹・高橋洋子も自分を子分に犯させた、地井をデバ包丁で刺し殺します。すごい兄弟ですね。まるで戦国絵巻、三国志か紅楼夢の「北陸バージョン」って感じです。 ファーストシーンからいきなり雪のなか、首だけ出して頭上をジープで走り回られる西村晃。いきなりクライマックスなのかと驚きましたが、こんなの序の口でした。この映画では舞台が豪雪地帯・北陸なだけに、リンチといえば「雪中生き埋め」がルールなようです。ハナ肇の子分も埋められておまけに水までかけられます。こりゃ痛そうですね、凍るから。 松方弘樹の角刈りのやくざ姿は、もう、惚れぼれ。現在のように貫祿がついてなくて、バラエティで愛敬をふりまくなんてこの当時の姿からは到底、想像できません。獣臭さというか、アブナサというか、ふつふつと男の怒りが煮えたぎる、みたいな。小刻みに前後に揺れている演技が次の瞬間の爆発のテンションを案じさせて実に良いです。しかも松方弘樹はあのとおり整った顔だちですから「美しく、かつコワイ」という、やはり良い素材があったればこその「実録路線」っちゅうとこではないか、と。 主役のアナーキーな活躍を盛り上げるのが、関西の親分衆のカリカチュアライズな芝居です。スケベで姑息な遠藤太津郎、妙に明るいナルシストの成田三樹夫、呵呵大笑しっぱなしの千葉真一(茶髪でロンゲにグラサン、遊んでますよ)、なんか軽演劇一歩手前みたいなノリなのね。深作監督のやくざ映画に出てくる面々はいつも前向き、お祭り騒ぎ。やりすぎるくらいのイキオイが、キワモノ加減を盛り上げて楽しいし、その直後に展開する血みどろの抗争劇を際立たせてくれます。活劇シーンでいきなりカメラを横にしたり、全然水平位置を保たない、ダイナミックな構図もドキドキさせます。 地井の子分が小林稔侍(死に顔メイク)と榎木兵衛(スキンヘッド)。この二人が人質にとった高橋を犯した後、モモヒキ一丁でオイチョやってるところは、妙に所帯臭くてね。一時は松方に許してもらえたかに見えた小林と榎木ですが、矢吹二郎の手元が狂ってジープに頭をグチャグチャに潰されて死にます。う〜ん血も涙もないなあ。今はドラマで渋い役どころが多い小林稔侍。昔は眉毛そったり、病人メイクで頭のコワレたちんぴら専門だったのにねえ。 (1997年01月05日) 【追記】 2002年12月21日・・・キャストを修正。 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16