大菩薩峠 |
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■公開:1968年 |
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昔から思っていたのだが橋本忍が書いた時代劇ってなんか面白くない。それは観てるほうが時代劇に対して普遍的に求めているものが足りないからではないか?しかしこ作品は別、岡本喜八の娯楽映画魂のほうが勝ってたから。 中里介山原作。大菩薩峠で巡礼の老人・藤原釜足が通りすがりの浪人・机龍之介・仲代達矢に惨殺された。泣きじゃくる巡礼の孫娘・内藤洋子を引き取ったのは元盗賊・西村晃。龍之介は親友・中谷一郎と剣の試合をすることになっているが、その妻・新珠三千代にわざと負けてくれと体を張って懇願される。しかし、龍之介は彼の命を奪う。 「逆上」このことばが最も似合う役者、それが仲代達矢だ。 ストーリーは超有名なので割愛。 ここはどうしても市川雷蔵バージョンとの比較になる。そんなことしてもしょうがないじゃん、と言われても、やるもんね。 雷蔵と仲代では、まず体力的に差異が大きい。牛若丸と弁慶くらいか。岡本喜八監督はモノクロの画面をかなりハイキーっぽく仕上げているように見えた(ぼろっちいプリント見たのかもしれんが)のでちょっと怪奇映画の面持ち。仲代達矢の顔はかなり「濃い口」であるから、水車小屋で新珠三千代を犯すシーンなんて、ものすごくエロい。こういう生々しさは雷蔵には無理。それはどっちが良いとかではなくて、役者の個性。 内藤洋子は西村晃の手によって奉公にあがるが、女郎屋に売られてしまう。ここで仇とは知らず仲代に出会う。開かずの間で竹御簾に囲まれている。内藤はその部屋に幽霊が出るから怖いと言う。ろうそくの灯りが揺れて、内藤が身の上話しを始めるとやがて仲代は娘の「正体」を知る。御簾に人影が、、、巡礼の鐘の音がちり〜ん、と。ゾワゾワ〜っとくるなあ。竹御簾とろうそく、怪談には必須アイテムだよな。 龍之介と組む芹沢鴨が佐藤慶で、これは適役。百姓上がりの近藤勇・中丸忠雄や土方歳三・宮部昭夫を軽蔑し続けてついには女としとねの中で殺される惨めったらしいリベラリスト。顔色悪そうで、ほら、遠足行くとバスの中でゲロ吐くタイプ。パラノイア気味の仲代と病的な佐藤の取り合わせは良かった。 様式美的な美しさよりもやっぱ岡本監督だから血生臭さくて、激しくて、を期待する。それが発揮されたのは、布団に柏餅のように巻かれ、紙襖の上からメッタ突きにされた芹沢暗殺のシーンと、ラスト、龍之介が猛火の中で新選組と大立ち回りをするところ。血を吹き上げて(モノクロだから墨色だけど)ゲヘゲヘする龍之介、完璧にキレちゃう。このキレ加減が仲代龍之介の真骨頂。 内藤洋子を陰で見守る泥棒の西村晃は、女郎屋へ売り飛ばした性悪女とそのヒモ・田中邦衛をスカッとやっつける。そして内藤と宇津木・加山雄三との清らかな恋をサポートするのだ。う〜んカッコイイ。でもって島田虎之介は三船敏郎、これで画面がぐっとゴージャス、かつシマる。 総じて主役よりも脇役のほうがキラリと光ってしまうのが岡本映画の特徴なんでありますな。 (1997年05月15日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16