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蘇る金狼


■公開:1979年
■制作:東映、角川映画
■監督:村川透
■助監:
■脚本:永原秀一
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:松田優作
■備考:


 この映画を語るとき忘れてはいけないのが、冒頭の今井健二だ(と私は思う)。屋上においつめて、全然助けてやる気なんか無いだろう松田優作にまるで健さんのように「女房、子供はいるのか」と聞かれて慌てた健二は「いるいる!いっぱいいるんだ」と命乞い(?)するが案の定、むなしく銃弾に倒れる。この場合の「いっぱい」は市井の人なら「子供」でしょうが健二の場合は「女房も」と聞こえるところがキャラクターのなせるわざ。

 すばらしすぎる導入部である。

 昼間は一般サラリーマンをしている優作。フロアに置かれた怪しげな荷物を小池朝雄に問いただされて「故郷から送ってきたリンゴです」とすかさず答えてそれ以上の質問を「私、風邪気味なんで、、ゴホゴホ」の咳払いでかわしてしまうオトボケ。オフィスワーカーにとって風邪は大敵さ。

 でも一皮剥けば、優作は目的のためなら手段を選ばない狼だ。企業乗っ取りをたくらむ孤独な狩人。

 風吹ジュンを口説くためにゴルフの打ちっぱなしに行くところ。サングラスにジャケットでネクタイしめた姿が浮きまくりで、軽快なBGMにのって登場する優作。巣振り、巣振り、巣振り、で、空振り。おまけに「あ?」手にしたクラブがない!周りの客に頭をペコペコさげながら拾いに行き、そしてまた、(クラブのみ)飛ばす、という。優作の宇宙忍者ゴームズのような長い腕とグローブのような手がユーモラスで笑えるが、この一連のギャグはすべてジュンの胸襟を開かせるための芝居。そのあと酒でへろへろにしたジュンをホテルへ連れ込んでハードに情交するまで、ほとんど台詞もなく実におしゃれな展開だ。

 そして極めつけ、恐怖の殺し屋・岸田森。目と足と言葉が不自由という、じゃあどうやって仕事するんじゃい!とツッコミたくなるけど彼は「凄腕」。本当に「凄腕」なので壊れにくいセットにもエルボーくれてちゃんと壊してから倒れる。相棒が待田京介ってのも嬉しいね、目立たないけど。

 いつでもどこでも、すごいぞ千葉真一。「白昼の死角」のテーマを口ずさみながら登場。最後は「戦国自衛隊」みたいに吹っ飛んでハチの巣。しかし千葉ちゃんにはオフホワイトのデニムの上下が似合うのよね。それもピチピチのが。アメリカじゃあゲイのファッションだっちゅう話だ、、笑えんな。

 優作は孤独。ハードボイルダーは死ぬほどの孤独が似合うもの。

 一人でケチャダンスの人達のようなメイクをした優作。青(あお)暗い部屋でトカゲのようなパフォーマンス。それが突然、泣き顔の「お面」を被る。さてここで仮面の下の優作は「泣いて」いたのか「笑って」いたのか。最初はくぐもった笑い声がしていたけれど、、最後は?謎。

 この主人公には最初から破滅しかないわけだけど、深刻になりすぎず、ところどころにギャグをかましながらも虚無的で魅力的な人物像に描き切れたのは優作あってこそ。そぎ落とされた頬に宿る狂気がめちゃくちゃかっこいい。キム・カーンズもまっ青のハスキーボイスの主題曲が聞いていて息苦しさを助長するのがなんなんですが、全編、ハードでタイトなこれぞまさに優作のために作られたアクション映画。

 どこを切ってもかっこいい優作。こりゃハマる。ショボイ野郎どもの神。

1997年02月12日

【追記】

2004/03/06:俳優さんの名前をまちがえてしまいました。成田三樹夫→小池朝雄。ファンのみなさま、タイヘン失礼しました。

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-03-07