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毒蛇島奇談 女王蜂


■公開:1952年
■制作:大映
■監督:田中重雄
■助監:
■脚本:倉田勇
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:岡譲司
■備考:


 新劇の俳優と言うのは映画に出ると、時々とんでもない役どころだったりする。晩年は渋い中年男だった芦田伸介は日活でアクション映画の小悪党だったし、民芸の大滝秀治なんか渡哲也に蜂の巣にされたりしていたのだ。で、本作品の森雅之もちょっと意外な役どころだ。

 孤島、月琴島の所有者・見明凡太郎の屋敷で一人娘・久慈あさみが婚約者・船越英二を殺害してしまい、そのショックで記憶喪失になる。見明は船越を自殺に見せかけるために崖から死体を捨てる。

 身ごもっていた久慈を船越の親友で東京在住の貧乏学生・森雅之(当時41歳、詰め襟学生服姿!はスゴすぎ)に嫁がせる。母の実家の経済的援助もあり、何不自由なく美しく成長した久慈の娘・久慈あさみ、二役は婚約者・菅原謙次、養父の森とともに父が「自殺」し母が「病死」した島へ行く。

 久慈の両親の「死」に疑問を抱いた菅原は大学の先輩である探偵の金田一耕助・岡譲司を頼る。久慈は母が父の自殺後、1年近く経ってから同じ崖の上から投身自殺をしたことを知る。屋敷に雇われている、顔に痣のある青年に「父親の死の真相」を話してやると誘き出された久慈が襲われて、失神し気が付くと青年は殺されていた。

 「せむしの男」と言えば明智小五郎の専売特許かと思っていたら金田一もやるのね、変装。この映画の金田一はチューリップハットの貧弱なインテリ(石坂浩二)でもなければフォークロックな濃い青年(中尾彬)でもないし、長身痩躯のアンニュイなハンサム(豊川悦史)でも、ましてやむさ苦しい中年男(渥美清)でもない。

 とにかくカッコイイんである本作品の金田一さん。スーツでキメキメ、ツバ付のソフトがおしゃれなダンディさんである。フケなんか飛ばしません。片岡千恵蔵の金田一と同じ系譜だな、原作だとどっちが正解なのかな?わかんないけど。

 すべての犯人は森雅之。船越英二を殺したのも。母・久慈は船越の死体を見て卒倒して一時的なパー状態になっただけ。でも我に返ってやっぱりショックで自殺した、が、真相。で、これがなかなか判らないようにできている。

 女執事が「ハイジ」のロッテンマイヤーさんみたいな感じ。あんなキツくないけど「売れ残りのみなしご」と悪態をつかれるから、すわ、財産乗っ取りを狙っているのでは?なんて思わせぶりなシーンもある。犯人は「さ」がつく名前の奴だ!って判った直後に葬式があって「さ」のつくクセモノ風の男が次々と登場。「おお!誰が犯人なんだ?」という観客の興味を盛り上げてヨシ。

 「母が父を殺した」と思い込んだ久慈が自殺するのでは?とアセった菅原謙次が部屋に入ると、久慈が書いたと思われる手紙が。「あ、手紙だ」と開封しようとする菅原に「そんなモノは書き置きに決まってるだろ!(そんなことも判らないのか?モタモタしてんじゃねーよ、このバカ!、ってそこまでは言わないけど)」というツッコミを入れるのは「せむしの爺や」(実は金田一、これはバレバレの変装)。こういう古式ゆかしい映画は、現代の観客のリズムにあわず「イライラ」するのが常だと思っていたが、あまりのナイス・ツッコミに拍手!です。

 犯人の森雅之は正体がバレて血迷い、娘・久慈を盾にして逃亡をはかるが、娘・久慈の自殺もタックルで防いだ菅原の決死の飛び込みで失敗。さすが菅原!「講堂館モノ」出身の柔道役者の面目躍如というところか。

 森雅之はしょぼくれ駐在に撃たれた挙句にいきなり現われたシェパードに噛まれ、血を吐いて後、断崖から転落死というブラッディーな死に様を展開。いつもの甲斐性なし(それは同じでも)的「うなだれ演技」とは大違いだ。でもかっこいいから許す。

 久慈あさみは宝塚の男役で長身、スレンダーなスタイルに、凛とした姿勢の良さで本当に華のある女優さんだ。「社長シリーズ」で天下の森繁が頭が上がらなかったのも無理からぬところか。

 岡譲司の重役スタイル・金田一耕助がカッコ良かったし、リズムも画面もトロくない。下品に血生臭さくないし、、、なかなかスグレモノの「昔の」横溝映画でありました。

1997年05月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16