社葬 |
|
■公開:1989年 |
|
かつて「サラリーマン清水港」「サラリーマン忠臣蔵」などという映画が東宝で作られた。これは東映が作った平成のサラリーマン映画。 さる大手新聞社で派閥抗争が勃発。社長・高松英郎 派が会長・若山富三郎派を追放した直後、社長が腹上死する。さて慌てたのは社長派の大幹部・江守徹だ。 江守は叩上げの販売局長・緒形拳を仲間に引き入れ、社長の遺体を運びだしなんとか病死に見せかける。緒形は派閥とかそういう生臭い話は苦手なのだが、事態は彼の困惑をよそに一気に集団抗争へ突入するのであった! ええっと、まず若山会長サイドには娘婿の中丸忠雄、小林昭二、根上淳。江守サイドには加藤武、菅貫太郎、加藤和夫らがいる。まるでサファリパークですな、人語を解するケダモノの集団とも言えましょうか。とにかく体面を重んじる大企業であるから社葬だけは乗り切らなくてはならない。 その日までに後継者を決定しなければならない。 てなわけでこのうんざりするような「社葬実行委員長」という大役を押し付けられた緒形の奮戦記がメインストーリー。 そうこうしているうちに、若山会長が倒れ話はさらにややこしくなる。高松社長の息子・佐藤浩市はなんともたよりないのだが、とりあえず他の魑魅魍魎に比べればちったあましな会社になるだろう、緒形の一発大逆転の作戦が成功し、波乱に満ちた社葬は無事終了するのであった、メデタシ、メデタシ。 社長の通夜の宴席で言いたい放題の罵りあいを演じるオヤジ共のバイタリティを見よ!尊敬しちゃうね、私は。 実は短い期間ではあったけど私、Y新聞社の営業でアルバイトしてたことあんのよね。新聞社ってのはぜ〜〜〜〜ったい潰れないの。オープニングで「インテリがつくってヤクザが売る」っていうテロップが入るけど、後半は納得しても前半は???だなあ。両方ともヤクザだと思うけどなあ。 だからってここまで誇張した「まんまヤクザ」な人々が経営できるほど甘くはないんだけど、そこはそれ映画だから、許すとしよう。劇中、食中毒を起こさせた仕出しの弁当屋に向かって「テメエのところなんか(新聞で)書きまくって潰してやるからなあ!」ってやけくそになって叫ぶシーンがあるけど、これなんかブラックユーモアを超越しており、実にリアルでいい。 過労かなんかで頭がパーになった元・敏腕記者の小松方正の演技、あれは凄かった。もうてんでヨイヨイなんだけど「功労賞」で重役になっているの。口半開きだし、食いかけの弁当(実は腐ってたんだけど)を噴水のように噴き出すところとか。「花いちもんめ」もびっくりの迫真演技。大企業には一人か二人は必ずいる「隠れ」キャラだ。 壮絶なおじさんたちのバトルだが、おばさん(失礼)たちも負けてはいない。社長の妻・野際陽子。死に水もとってやらないくらいムカついた彼女は息子を次期社長にするために燃えるのだ。 緒形と恋仲になる十朱幸代と、佐藤浩市の恋人・井森美幸はちょっと弱かった。いちおうベットシーンはあるけどね。 それより緒形にホの字の秘書・藤真利子。葬儀の席で浮気相手とのデートの予約までさせられたことをぶちまけるところ。世の「秘書付」管理職の胆を摂氏5度位まで冷やさせたと思われる心地よいシーンだった。 久々に登場した男性中心の映画。うっとおしいおやじだけでもこれだけ面白い映画ができるんだ。最近のいいかげん、スカスカのスノービッシュなゲージツ映画とか、新興劇団みたいにでかい声を張り上げ珍妙な動きをしてみせるだけの映画とか、そんなの幕張でやれよって言いたくなるようなSFXだけがウリの映画とか に飽きていたところだったので、私にとっては実に面白かった。 これは男が一人で堂々と見に行ける映画です。え? 東映の映画ってみんなそうだろうって?う〜ん、確かにそれは言えているなあ。 じゃあ「職業ヤクザ」が出てこない「男性映画」ってことにしましょう。ヤクザみたいな人はたくさん出ているけどね (1997年02月22日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-05-16