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紅の空


■公開:1962年
■制作:東宝
■監督:谷口千吉
■助監:
■脚本:関沢新一
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:加山雄三、夏木陽介、佐藤允
■備考:加山雄三・佐藤允・夏木陽介、 東宝ダイヤモンドライン映画。


 海洋アクション映画「紅の海」の兄弟作品。出てる俳優と監督は同じだが、脚本は国弘威雄から関沢新一へスイッチ。娯楽色の強かった「海」と比較すると、悪役が松村達夫から中丸忠雄になったぶんだけややマニアックな内容へ。

 日活が石原裕次郎で映画化した「紅の翼」とプロットがそっくり。こちらは三人で主役をシェアしているぶん緊迫感は今ひとつで顔見せ興業的。

 貧乏航空会社に勤務している夏木陽介佐藤允は腕はいいがしょっちゅう喧嘩している。彼等を暖かく見守るのが社長の志村喬とベテランパイロットの松村達雄。夏木は近所の教会のピアニストに恋をしている。そこへオートバイに乗った若い男・加山雄三が現われたので、夏木は気が気ではない。

 ある日、得意先の資源開発会社の専務・中丸忠雄が、離島にボーリング用のドリルを届けるように依頼してくる。天候が悪く、出発は危ぶまれたが、なにせ資金難。松村が運転をかって出るが、数日後、墜落した機体が発見される。

 これには国際的な紙幣偽造の組織が絡んでいて、松村達雄は無事に離島に客・田中邦衛と荷物を届けた帰路、田中に殺されたのだとわかる。加山は実は刑事で、この偽札グループ摘発のため、中丸の会社に用心棒として潜入していた。正体をあらわした中丸忠雄と田中邦衛は、偽札の原版を持って国外へ逃亡するため、佐藤允を脅し、セスナで飛び立った。

 離島へ不時着したセスナだったが、佐藤は負傷。息詰まる撃ち合いの末、加山が二人を倒し、無線で救助を求める。島の周りは悪天候の上に真夜中で視界が利かない。しかし夏木陽介の決死の飛行で、加山と佐藤は助かるのだった。

 この映画の見どころは何といってもセスナの飛行シーンの特撮である。山肌に激突しそうになりながら暗闇をぬって低空飛行を続けるところは迫力あり。実物から特撮への移行もスムーズで申し分ない。ひょっとしたらこのセスナこそ映画の主役と言えるかも。

 加山雄三と佐藤允と夏木陽介は当時「ダイヤモンドライン」と呼ばれパッケージでよく共演していた。松竹の「三羽烏」みたいなもんですね。しかしながらこの三者、いっしょくたにするのって無理があるよなあ、と思える。個性が豊かなのは良いんだが加山の天真爛漫さに比べて、残りの二人には分別がありすぎる。どうしても加山雄三が目立ってしまって、夏木陽介と佐藤允は割を食っている感じだ。

 前作「紅の海」の時は佐藤が一歩引いていて、夏木の清々しさと加山の甘さが相まっており、適当にみんなバカそうで気楽そうだったが、「紅の空」はかなりシリアスな展開だ。セスナ飛行機の機内という閉塞された空間の緊迫感がそう見せるのだろうが、そんな空気の中ではイマイチ、ダイヤモンドラインは失速気味である。

 特に、佐藤允が出血多量で意識が薄れてしまうのを食い止めようと、「よお〜し、俺、炭鉱節踊ってやるよ」と唐突に「月が出た出た、月が出た」を踊り出す加山雄三は、見ていてどうしたものかと戸惑った。加山雄三は一時が万事おおらかにできているので「何をやっても許される」って気はするんだが、炭鉱節ってのはねえ。実際、踊りヘタクソだしね、めまいしそうなくらい。

 むしろ田中邦衛の正体不明の殺し屋ぶりが不気味でよかった。ぶっとばしても死にそうにない元気の良い色悪・中丸忠雄と好対称。ちょっと小突いただけでいつまでも根に持ちそうな、不健康な悪。それは時として、素晴しい存在感を生む。初期の青大将がそうだったように。

 「紅の海」では表面では篤実家で実は極悪海賊の松村達雄は、今回は出番が少ないが好人物になり、同じく「〜海」で加山の弟分だった中丸忠雄が悪役に、それぞれ入れ替わったが、田中邦衛だけはポジションが同一だがアロハからスリーピースに出世した。

 特撮とスターの清々しさが身上の青春アクション映画。セスナはよかったよ、念のため。

1997年03月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16