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華麗なる一族


■公開:1974年
■制作:芸苑社
■監督:山本薩夫
■助監:
■脚本:山田信夫
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:佐分利信
■備考:献血しろ、献血!


 見かけは華麗だが中身はドロドロ、ということだがその主人公が、無骨で豪快な佐分利信であることから華麗と言う言葉のシニカルさはいやますばかり。

 阪神(神戸銀行のことかな?)銀行頭取・佐分利信は大蔵省が打ち出した銀行の再編成計画に野望を抱く。彼にはれっきとした正妻・月丘夢路がいたが、子供たちの家庭教師で愛人でもある京マチ子を同居させている。京は佐分利の子供たちを巧みに閨閥(けいばつ)結婚をさせ一族を完全に牛耳っていた。佐分利の長男・仲代達矢は顔だちが祖父に似ているためか佐分利から疎まれていたが、努力家である彼は祖父の経営していた製鉄会社の重役になった。

仲代には自前の溶鉱炉を持つという夢があり、佐分利の銀行から融資を引き出すことに成功するが、実はこれが巧妙な罠であり、佐分利が銀行の合併を有利に運ぶための材料にされる。仲代は佐分利を自分の猟銃で負傷させる。仲代の鉱炉建設は爆発事故で頓挫し、会社も大手の会社に吸収されることになった。仲代は自分を信頼して融資をしてくれた大同(これ太陽銀行?)銀行頭取・二谷英明に申し訳がたたず、父親の政界工作スキャンダルで一矢を報いようとするがそれも政戦の道具となって闇に消えた。

 父と母に自分の本当の父親は祖父ではないのかと仲代は問いただすが、激昂した父とオロオロする母の姿を見てその事実を確信する。仲代は雪山で猟銃自殺を遂げる。佐分利の夢は実現し大同銀行と阪神銀行の合併は成立した。だが、仲代の持ち込んだ資料が元で大蔵大臣・小沢栄太郎は、さらなる合併を指示、その画策を佐分利の娘婿・田宮二郎にひそかに命令する。合併披露(これってひょっとして太陽神戸銀行のこと?)パーティーで得意満面の佐分利だったが、それが三日天下であることを彼はまだ知らないのであった。

 仲代の遺体に対面したとき、女房・山本陽子が「お父様、彼はB型でした。彼はあなたの子供でした」って言うんだけど、ってえことは、司法解剖されるまで血液型が分からなかったって事か?仲代の会社じゃあ健康診断のとき血液検査をやってなかったのか?それとも39歳(設定年齢)までただの一度も献血したことがなかったのか?「彼はお祖父様の子供ではないかと悩み続けていたんですう〜」ってね、血液検査ってもんがあるんだから、やってもらいなさいっつーの!

 日本の巨悪といえば佐分利信。この人の凄いところは演技を超えた存在感である。ハンパじゃなく「でかい」。態度、押し出し、タッパもさる事ながらそのご面相の迫力が質量ともに大充実である。この映画では、前半の終了間際(この映画には休憩がある)仲代にアタマをブチ抜かれて(本当はかすっただけ)醜い傷跡を見せるようになってからは、そりゃあ、もう、恐れ入りました状態。

 さて、ここでもう一人のキーパーソン、月丘夢路を見てみましょう。完全なお嬢様育ちで、京マチ子の言いなり。ちょっとオツムが足りなそうなのだが、都市銀行頭取となった佐分利が京に手切れ金を渡して別れようとしたとき、駄々をこねた京マチ子に「あなたも子供を作っておけばよかったのにねえ」とサラリ&グサリとかます。昼行灯と見せて実はコイツが一番、、。ひょっとして仲代の血液型とか知っていたのにバックレてたの?だとしたら夢路!おそるべし、である。

 最近の「銀行の不祥事」について肝心なことは書かない新聞報道に飽き足らない方々はこの映画をご覧あれ。いかに銀行と大蔵省が一蓮托生、極悪非道、破廉恥千万な「くされ縁」であるかが実に綿密に描かれており、それはひとえに山崎豊子の原作の素晴しさなのだが、それをあますところなく再現して実に見応えがある。3時間半の上映時間があっという間だ。

 他に、叩上げのお下劣専務・西村晃の大人の喜劇的演技もイイ味だ。田宮二郎の怜悧な官僚演技、小沢栄太郎のタヌキ芝居、大滝秀治の田舎代議士、荒木道子の鼻もちならないオハイソマダムも、それらしくてとても楽しい。

 尚、後年、猟銃自殺を遂げた田宮二郎は、本作品の主人公を模したのではないか、と山崎豊子氏が語ったそうだ。

1997年03月27日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16