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暗黒街撃滅命令


■公開:1961年
■制作:東宝
■監督:福田純
■助監:
■脚本:小川英
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:三橋達也
■備考:東宝のB級映画の尊師・福田純のスタイリッシュアクション。


 福田純監督は谷口千吉監督の助監督だった人だ。だから男性的なアクション映画は得意。師匠と若干異なる点は、少々キワモノ的なテイストがついて回ることだ。それを批判する人もいるが私は好きだ。しょせん、彼に一般大衆受けする映画を撮れというのが無理難題。なんとも理解し難い様式美こそ、彼の十八番なのである。

 恋人を競輪場の現金輸送車襲撃事件のとばっちりで失った刑事・三橋達也は、辞職覚悟で事件の捜査に乗り出す。傷害逃亡犯に化け、事件のカギを握っていると思われる、暴力団に接近。真犯人をつきとめたところで、暴力団内部に裏切り者が出て対立勢力へ金が奪われる。刑事に狙撃されてビッコになった正体不明の殺し屋が裏切った仲間と対立勢力のボスを倒す。事件は二転三転するが、情婦と逃げようとした殺し屋が自滅して事件は解決するのだった。

 冒頭、ジャンの音が鳴って、競輪場を後にした輸送車が襲撃されるタイトルバック。音楽無しのドキュメンタリー風の画面に、スタッフの字幕が挿入される。まるでフィルムノワール(フランスのギャング映画)みたいなオープニング。テンポ、なかなかに良し。

 三橋に絡んでくる佐藤允が良い味だ。昭和のトランジスタグラマー・水野久美の妖艶なメイクと相まってキワモノ度がすこぶる高い。チンピラ時代に刑事に撃たれて片足が悪い。どうも、この片目とか片足とかのハンディキャッパーのヒットマンてえのはダルな空気が似合って、美味しい役だ。それをリチャードウイドマークに激似の佐藤允が演じるのだから、さらに陰湿に凄味を増す。

 麻薬を売っているのはヌードスタジオだ。フィルムケースに偽装している。襲撃事件の真相を白状する堺左千夫の麻薬患者演技はなかなか迫力ある。薬が切れてゲヘゲヘしながら、幹部の中丸忠雄を拳銃で脅して麻薬を奪う。過激な小心者を演じさせたら堺左千夫は天下一品だ。

 暴力団の親分は田崎潤河津清三郎。浪花節的な田崎と、アメリカナイズされた河津のコンビは東宝ギャング映画の屋台骨をしっかり支えた名親分コンビだ。

 暴力団が経営しているバーのクロークが星由里子。すごくかわいいしっかり者で仲間の刑事と連絡を取り合う三橋をサポートする。三橋の相棒刑事が中谷一郎。正体がばれそうになったとき、情報受け渡しのための番号札を巧みに石鹸の裏に隠すシーンはかなりドキドキしてしまった。福田監督はこういうトラップの仕掛け方が上手だ。

 田崎の部下だったが、どうも先行きが怪しくなったと、さっさと河津に乗り換えた幹部の中丸忠雄。この人も東宝のアクション映画には欠かせません。画面に登場すると「おっ」って感じで存在感アリすぎ。大体、親分の命令に忠実でエネルギッシュなのだが、裏切るときの冷酷さも捨て難い。押し出しが強い割に殺られるときがあっさりしているのも良い。

 この映画の不幸は主演が三橋達也だったことだ。本人の責任というより他に人材がいなかったのがイケナイ。三橋はベビーフェイスだが派手さが無いし、少々分別クサイのもいかん。すこし根性の曲がった役(「悪い奴ほどよく眠る」および「天国と地獄」参照)を演じさせるとすごく上手い人だったが、やはりこういう映画にはカタルシスが不可欠。それが三橋達也だとそも、アクションの歯切れが悪いし、後味がどうもスッキリしないんだな、私としては。

 物事を深く考えない二枚目。そんなキャラクターこそB級映画にはふさわしいのである。考えちゃいかんのよ、こういう映画は。見ているほうも演じているほうも。男なんてみんなバカなんだから、と、そう思って見ていなさい。なかなかイカス映画ですよ、これは。

1997年03月22日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16