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暗黒街の牙


■公開:1962年
■制作:東宝
■監督:福田純
■助監:
■脚本:小川英
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:三橋達也
■備考:兄弟愛と麻薬の恐怖を描いたアクション映画。


 岡本喜八監督がモダン・アクションの巨匠なら、福田純監督は東宝カルトの巨匠と呼ばれよう。

 麻薬捜査官・三橋達也が潜入した暴力団が経営している賭博場のディーラーはなんと弟・夏木陽介だった。夏木は麻薬中毒患者になっており、昔の恋人・浜美枝にすら会おうとしない。心配した三橋だったが捜査の途中だ。三橋は古参の暴力団組長・田崎潤の元に客分として潜入する。弟は、新興勢力の暴力団組長・佐藤允の身内だ。

 佐藤が田崎に偽の麻薬を売りつけ現金を奪う。佐藤の命令で現金を奪い、それをネタに取り引きをもちかけた堺左千夫は殺され、現金を奪って恋人・若林映子と逃げようとした若僧・伊吹徹もまた、田崎の部下・中丸忠雄に狙撃されてホームから転落し轢死した。佐藤と田崎は手打ちをすることになったが、落ち合う場所で互いに部下を待機させ、壮絶な撃ちあいが始まる。銃撃戦で田崎と中丸が死に、三橋は負傷。佐藤は車と現金を奪って逃走する。後を追うのは中毒から立ち直った夏木陽介と水野久美。三橋と夏木が佐藤を倒して事件は解決する。

 晴れやかな表情で歩く三橋たちとは対照的に、若林は通りすぎる列車をだまって見つめていた。彼女はこれからどんな人生が待っているのか。若林映子のコケティッシュな横顔が胸にジーンと来る、というなかなか味わい深いラストが印象的。

 麻薬受け渡しの描き方がなかなかシュール。二人組みで現場に向かい、まず一人づつが下車して相手の車に乗り込み、ブツと現金を確認後、残り一人が相手の車に乗って、つまり自動車ごと交換してしまうのだ。冒頭、三橋はこの取り引きに割り込んで、追っかけてきたギャング共にウイスキーの水鉄砲でもって目つぶしをし、まんまと逃げる。凄味を利かせた直後、水鉄砲がピューってのが力が抜けて可笑しかった。

 田崎は「ブルートルコ」(サウナなんだけど)というヘルスクラブを経営。逃げたはずの三橋がちゃっかりサウナボックスにいて、自分を客分にしろともちかけるところはすっとぼけた味がきいていてなかなか良かった。

 佐藤は若手だが冷酷非情で野心的なギャングを演じていてハマる。爆烈お父さん風の田崎親分は終始、手玉にとられ気味。佐藤允が、夏木と三橋の関係に気付いて、夏木をリンチにあわせるところはちょっと東宝とは思えない迫力。ニタニタ笑いながら、夏木の頭を子分に命じて水の中に押し込む。おお、これではまるで東映ではないか!でも、顔をうずめるのが洗面曹ってのが、やっぱ東宝だな。東映だったら確実にアサガオだろうね。

 不健康な夏木陽介って見たことある?私はありませんでしたからねえ、薬が切れて禁断症状に苦しむ様、目の下にクマなんかつくっちゃってる夏木陽介って珍しいと思います。

 平田昭彦(様)は、今回は刑事だったが、この人もこのテのギャング映画ではどっちに転ぶかいつもハラハラさせる人だ。概ね知性派なんだがアクションもできます。悪徳弁護士か刑事か、中途半端な役はない。すげー悪いか、すげー良いかどっちかだ。

 中丸忠雄は最後まで田崎につきあって殉死。腹に一物ってのがないぶん少々迫力に欠けたけど、悪役のこの人が血相を変えて飛び出してくると、それはほとんどの場合、忠実な子分として親分に急を告げたり、もめ事を解決しようとして奔走する場面なんだが、なんだかとってもワクワクする。さらに、ああ気の毒にねえ、あなたの努力は報われないのよ、と先が読めてしまうので、一層悲壮だ。

 夏木の恋人浜美枝がいきなりツイスト踊って歌いまくる。それがぜんぜん上手くないんだな、これが。だけど、さあ皆さん元気に歌いましょう!ってところは買う。あと、夏木は1コードに固定されたミラクルなギター演奏(手元写らず)を披露。楽器がちゃんとできる加山雄三に比較してやっぱ、悲しいよね、そーゆーのは。おっと余計な引き合いを出してしまった。

 谷間の道路と崖の上とで壮絶なピストル乱射の場面は結構な迫力だった。ドンパチ映画って言うくらいなんだから弾の数をケチっちゃだめだよね。でもあの距離で拳銃ってのは無いと思うなあ。せめて自動小銃かライフルが欲しかったね。

1997年03月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16