ダイナマイトどんどん |
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■公開:1978年 |
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なーぜーかー岡本喜八監督の映画に出るときの岸田森さんてただでさえ謎なのに、おまけにヘン。 米軍占領下の北九州。GHQの政策により暴力的な活動の一切を禁止されていた地元やくざの岡源組と、新興やくざの橋傳組が野球で対決する話。 少し前までは日本の体育会系の「ランニング」の掛け声は「ファイト!ファイト!」だった。「サインはV」ほか、スポ根といえば「ファイト!」、リポビタンDでも「ファイト!」だ。これって「喧嘩!喧嘩!」って言っているわけだ。英語圏の人々にとってはずいぶんと日本のスポーツマンが物騒な人々に思えたのではあるまいか。 なにかにつけて賭けマージャンで問題解決を図るのは、成人漫画雑誌でよく見かける強引な展開だが、この映画では、本来ならば、出入りをしなければいけないところを、GHQの目をごまかす手段として野球の試合をするのであって、試合に至るまでのアプローチから試合そのものまで、そのコンセプトは完全に「喧嘩」である。 チーム名が「岡源ダイナマイツ」と「橋傳カンニバルズ」という。物騒ですなあ。新興やくざは金にあかせて全国から助っ人をスカウトしまくる。特に指が一本ないからってフツーの人には絶対にできないようなミラクルな変化球を投げる北大路欣也がスゴすぎませんか?。対する岡源の旧石器人のような幹部・菅原文太は、野球なんぞやったこともなかったが、惚れた女.宮下順子の手前、欣也をライバル視しておおいに発奮する。喧嘩の陰に女あり、ですか。文太、ほとんど「寅さん」状態。 しかしダイナマイツは、戦前のスター選手だが今は傷夷軍人になっているフランキー堺のコーチ就任のみという心細い補強策しか講じていない。試合の日は刻々と迫るのであった。 野球だと思うから気おくれするんだ、これは出入りだ!と割り切った瞬間から岡源は一気に盛り上がる。背番号は花札に、スパイクは凶器に、ストリッパーのチアガールが大挙してダッグアウトの屋根を占拠し、史上最大のおバカなジャパニーズベースボールが始まった。 主審が大前均=巡査(え?と驚かないようにね)。貴賓席には両組の親分、金子信雄、嵐寛寿郎と警察署長・藤岡琢也、それにGHQが招待され、というより万が一の事態に備えて待機。ちなみにこの映画のタイトルは、岡源の文太が「ダイナマ〜イツ」と叫ぶと他のメンバーが「どんどん!」と気合いをいれるシーンに由来する。つまり「ファイト!オー!」みたいなもんだと思えばよろしい。タイトルからして喧嘩売ってるわけだね。 忘れてはならないのが、橋傳組の幹部・岸田森だ。ピンクサテンのスーツに同素材のソフト帽をかぶり、ほとんど、売れない漫才師のような強烈なスタイルで、日本全国津々浦々、スカウト行脚に奔走する。岸田のキャラクターは岡本喜八作品の旧常連だった、伊藤雄之助の怪異さと中丸忠雄の尊大さを併せ持ち、かつ、ミッキーカーチスのオシャレさをも有するというもので、まさに岡本組の後期無敵のキャラクターと呼べる。一応知性派なので、バトルには参加せず裏でコソコソ陰謀を巡らす。乱闘の最中はスコアボードによじ登り、蝉のようになっていた。 やっぱり、というか当然の結末というか、盗塁と見せかけて飛びゲリ、鉛を仕込んだバットでボールではなく頭をスマッシュするという事態に発展し、欣也の向こうを張って指詰めした石橋正次の、まさに身を削る努力も空しく、最後は大乱闘に。そして彼等は全員、刑務所に送られる。 懲りない人ってのはこの人たちを指す。同じ刑務所の作業場ではち合わせした面々は、性懲りもなく再び、野球でケリをつけようとするのだった。戦争映画ですらスポーツ感覚を持ち込んだ岡本喜八監督。見終わったあとで、妙に清々しい気分になってしまうところが、絶妙だ。スポーツの持つ「闘争心」をやくざの「抗争心」に翻訳し、あろうことか東映やくざの「善悪親分コンビ」金子信雄と嵐寛寿郎まで引き合いに出した、パロディ精神いっぱいの元気映画。 (1997年02月26日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2012-06-23