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大学の山賊たち


■公開:1960年

■制作:東宝

■監督:岡本喜八

■脚本:岡本喜八

■原作:

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:山崎努

■寸評:スキーと幽霊とギャング。


 他の監督の映画ではおおむね血も涙も無い(そのうえ尊大な)敵役の多い中丸忠雄であるが、岡本監督のそれでは最後にほんの少しだけ改心して結果的に味を残す場合が多い。

 大学生の山岳部の一行(山崎努、佐藤允、久保明、ミッキーカーチス、江原達怡)のニックネームは「山賊グループ」。彼等と同じ山に登ったのが「生理休暇を一年分まとめてとった」というデパガの「処女雪グループ」(白川由美、横山道代、柳川慶子、上原美佐、笹るみ子)。彼等は吹雪に巻き込まれそうになってとある山荘へ逃げ込む。そこには未亡人・越路吹雪がちょっぴりオツムの弱い使用人・堺左千夫(サイコー!)と一緒に暮らしていた。

 途中でひろったデパートの社長・上原謙と南国の皇太子を名乗る二人組のギャング(兄:中丸忠雄、弟:若松明)、それに越路の死んだ亭主・上原謙の二役がこれに加わって、山荘に閉じ込められたみんなの運命やいかに!

 山岳映画(スキー映画)なんだから山登りのシーンは当然、メインとなるところですね(「黒い稲妻」のトニーザイラー参照)。この映画では「処女雪組」はいいとしても「山賊組」の連中の誰一人として「その道のプロ」に見えないところがちょっとツライです。実際、スキーが達者だったのは日弱そうに見えて実はスポーツマンだった江原達怡(「若大将シリーズ」でマネージャーだった人)と久保明だけだったらしいです。ストーリー以外のところでどうしても目がいく、というかひっかかってしまいます。

 岡本監督は「独立愚連隊」ではいきなり佐藤允が大の字になっているアップから入って、パッパッとリズミカルに馬の背にまたがって大地を疾走させる、、、という具合に冒頭のツカミのテンポがとてもいい人。この作品でも、雪山を颯爽と降りてくる若いスキーヤー達が画面に現われていきなり「終」と出るので、なんだ?と思わせて実はデパートの社長がリゾート開発用の映画をみていたところだった、というオチでスタートします。

 「山賊」チームは各々に胃袋、お頭、税務署、などのニックネームがついています。なかでも医者の卵であるミッキーカーチスの飄々とした姿がバツグンに楽しいですね。あだ名はギネ。産婦人科だから外科は駄目なんだ、、とか言いながらも医者魂につき動かされて胃ケイレンを起こしたギャング兄の手術をしてやり、輸血を石油ポンプでやっちゃうところが豪快です。狂暴化したギャング弟に撃たれた兄を助け起こすところも医者らしくていいし。岡本監督はミッキーカーチスのこと大好きなんでしょうね、ミッキーカーチスもよく応えてると思います。

 このように若い者たちが活躍する映画だが見所はほかにも。そう!それは上原謙です。

 デパートの社長の時はダンディな紳士、未亡人の死んだ亭主にウリ二つ。つまり上原謙は若くして亡くなった越路吹雪のご主人(幽霊)と二役なのです。社長を亭主とまちがえてイチャイチャする越路にヤキモチを焼いたりする俗っぽい幽霊がかわいい。二枚目はなにをしても良いものです。そして山の平和を乱したギャング弟をやっつけるためについに姿を現わして(それまでは越路吹雪にしかその姿が見えなかった)、ピストルを乱射されても全然平気で(あたりまえ、幽霊なんだから)大活躍。映画史上最高の二枚目がヒュードロの太鼓に乗って登場する映画なんて他にある?これは一見の価値ありですよ。

 最後に本物の「南国の皇太子」が登場しますがこれが藤村有弘。例の怪しげな外国語をあやつって登場する姿に拍手。ものすごいインチキ臭さなんですが、こっちが正真正銘の本物。ニセ皇太子に化けていた中丸忠雄のほうがなんぼか外見上は本物らしかったと私は思いますがね。でもって、幽霊と未亡人が同居している山荘の名前が「丹波山荘」っていうのは偶然だがスゴすぎました。

1996年12月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16