トラック野郎 天下御免 |
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■公開:1976年 ■制作:東映 ■監督:鈴木則文 ■助監: ■脚本:中島信昭 ■原作: ■撮影: ■音楽: ■美術: ■主演:菅原文太 ■寸評:デコトラに乗った桃次郎は女好きでドジで間抜けなイカス奴。 |
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渋い熟年男と社会的な成功者に秘められた恥ずかしい「過去」。それについて語ることは「出自ばらし」のような底意地の悪さが付きまとう。だが、今や分別のあるバリ渋オヤジとして若手俳優に説教を垂れている菅原文太と、俳優座時代に「ロバくん」のスーツアクターをして日銭を稼いでいた赤貧生活から、今や経理操作で毎年巧みに長者番付首位の座を三田佳子(と松本人志)に押し付けている(らしい)、日本一馴れ馴れしい司会者として成功した愛川欽也の「出自」であれば誰でも知りたいところであろう。 デコトラ・ブームの火つけ役となった東映の人気シリーズ。独り者のトラック野郎、一番星桃次郎・菅原文太と妻子もちのやもめのジョナサン・愛川欽也が主人公。この二人が恋のさやあてや男同士の面子をかけて縦横無尽に、しかも下品に活躍するのが毎回の見せ場である。今回の「事件」は巡礼姿の美人デザイナー・由美かおるに岡惚れする桃次郎、ライバル「愛のコリーダ号」のドライバー・杉浦直樹とのマッチレース、ギャンブルに溺れた亭主に捨てられた子連れ女・松原智恵子の出現、ジョナサンの養女問題、という賑やかな内容だが、これらがなんだか良く分からないうちにすべて丸く収まってしまうのである。 とにかく息をもつかせぬ小ギャグの連発が嬉しい。橋の開通式で延々と演説をかます代議士、もうミエミエの田中角栄のモノマネ・金子信雄のテープカットを蹴散らす桃次郎とジョナサンが威勢の良いオープニングだ。杉浦直樹のトラックとの競り合いに巻き込まれた霊柩車の屋根がすっ飛び棺の蓋があいてむっくりと起き上がった死体・由利徹が「ホントに死んだらどうすんだ、このバカヤロオ」と怒鳴るというドリフのコントのような分かりやすさ。ジョナサンに愛想をつかして家出した家族の置手紙を見た桃次郎が「旅行に行ったのか?」とかますオトボケ。これをコワモテの文太が言うからこそ味わい深い。過剰積載でジョナサンに因縁つける(取り締まっているだけなんですが)お巡り・汐路章というのも泣かせるゼ。 桃次郎が惚れてしまう由美かおるは「花むしろ」を研究しているという設定なのだが「伝統の心」を探究するために「巡礼」をしているという。物事の本質を極めるためにはかなりのめり込むタイプの女性といえよう。しかし何を演っても一本調子だよね由美かおるって。妙に丹田(へそ下)に力を込めたような台詞回しが息苦しいし、その割りにスカスカな発声ってのが解せないなあ。だがなんと言っても凄いのは女トラッカーのマッハ文朱と杉浦直樹が「兄妹」ってことだ。ヤなコンビだねまったく。杉浦直樹は最近でこそ向田邦子作品で哀愁を帯びた中年男の悲哀を醸し出して高く評価されているけれど、この作品では皮のベストにカウボーイハットというかなりド恥ずかしい扮装でキザな女ったらしを堂々と演じる。この人、ちょっと昔はこんなんばっかだったのよね。 デコトラのバトルはかなり迫力があるがキワドイところは特撮処理でこれがなかなか上手い。本作品では定時までに荷を運ぶために落石の危険をおかして山道を疾走する桃次郎のトラックが断崖絶壁で大ピンチになる。同乗していた松原智恵子が恐怖のあまり夢想する「転落シーン」が一瞬ヒヤリとさせる。大型トラックの実写のシーンではなるべく公道を避けているようだが、どう見ても一般道路らしきところで蛇行運転したり、早回しだと分かってはいるが激しいカーチェイスを演じたりしているのでこりゃどう見ても、道交法違反(もしくはスレスレ)では?とおぼしきシーンも随所にある。それが結構な迫力なのもこの映画の見所だ。 この映画の様に「観客サーヴィス」に徹した作品てえのは決して名作とは呼ばれないけれど、イキオイにまかせてとにかくこれでもかと「笑わせよう」と努力してくれるので、見ているほうとしてはなんだか嬉しくなってしまうのだ。作家性なんぞクソくらえ!全然おしゃれじゃないし、ものすごく低俗で下品ではあるけれど、それを全然衒わないおおらかさは慣れるとハマる。その無秩序な無理やり感覚は時として呆気にとられるけれども、その「元気さ」に免じて素直に楽しんでしまえるのである。 松竹の「寅さん」に、ハダカとシモネタをくっつけて、マッポ・ギャグ(お巡りさんを侮辱し嘲笑する行為)を足したのが本作品シリーズである。それはどれ見ても同じで、毎回変わるマドンナが、松竹の名シリーズよりもはるかに、ヴァンプでヘヴィだったのが東映らしいところであった。 (1996年11月30日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16