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ああ爆弾


■公開:1964年

■制作:東宝

■監督:岡本喜八

■助監:

■脚本:岡本喜八

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:伊藤雄之助

■寸評:


 怪優・伊藤雄之助が歌舞伎の出。

 この映画では軽妙なジャズ音楽にあわせて狂言の様な動きを見せてくれる。時代劇映画やテレビに歌舞伎俳優が出演すると妙に所作がキマッてしまうので、さすがと唸らせるものだが、本作品の雄之助は基本に加えたデフォルメーションがさらに見事。

 久しぶりにシャバへ戻った老ヤクザの親分・伊藤雄之助が愛人の元へ行くとすでに彼女は殺されていた。新興やくざの中谷一郎とデキてしまったのだという。実は元子分の天元英世の芝居だとは知らず老体にムチ打って仇討ちにむかうが案の定、コテンパンにのされてしまう。親分、ブルー。刑務所仲間の発明狂・砂塚秀夫に助けられた親分はあばらやに住む女房・越路吹雪と息子に対面。だが女房はすでに新興宗教にどっぷりつかっていたのだった。

 中谷一郎が選挙に立候補する。キャッチコピーは「ペンは剣よりも強し!」ところが、実は中谷が文盲(差別用語か?)だったという差別ギャグがすごい。越路吹雪が入信しているのは、あの、ホラ、団扇みたいな太鼓をドンツクドンドンツクツクって叩く宗派である。太鼓の音に呼応して「腹筋運動」をする伊藤雄之助の珍妙なアクションに大笑い。お能や歌舞伎といった日本の古典芸能のアクションを巧みにとりいれて、さらにただでさえ「笑い」の取れる伊藤雄之助の顔と相まって、BGMにはモダンジャズをふんだんに取り入れて展開する、これは見事なミュージカルだ。

 砂塚に依頼して万年筆型の爆弾を開発し「中谷暗殺」を企む親分だったが、それが幼馴染みで今は中谷の運転手をしているシイタケ・沢村いき雄の手に渡ってしまい、アセリまくる親分!だがひょんなことから銀行強盗に出くわしたシイタケは天晴なお手柄をたててしまう。一度は親分に唆されて中谷の銀行預金を横領しようとしたシイタケ、古女房に「俺あ、悪いことはできねえな」と泣き笑いの顔で言うところが心暖まる。日本一の小心者役者(褒めてるつもり)・沢村いき雄の持ち味の真髄が堪能できる瞬間だ。

 再三の親分の襲撃にビビッた中谷一郎は選挙事務所の対面にある床屋へいくにも戦々恐々。大勢の、それもガラのわるそうな運動員の人垣の間をヒョコヒョコしながら歩いていく。中谷一郎の運動神経ってなかなかイケる。いつももっさりした印象があるだけに余計にそう感じるのかも。

 最後はゴルフボールに爆弾を仕込んだ親分と砂塚であったが、当日のキャディが息子と知ってびっくり仰天。爆弾ボールが、二代目の救出に向かった砂塚の乗用車を直撃し、幕が降りるのであった。

 伊藤と砂塚が爆弾の実験をするのは映画館。そこで上映されているのが「どぶ鼠作戦」。スクリーンの裏側で爆撃シーンにシンクロさせればバレないだろうっていう上手い考えだ。う〜んSEが同じだから確かにそうかもね、ってのは楽屋オチにすぎるかな。

1996年12月25日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16