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乱れ雲


■公開:1967年

■制作:東宝

■監督:成瀬巳喜男

■助監:

■脚本:山田信夫

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:加山雄三

■寸評:成瀬巳喜男監督の遺作。


 成瀬監督は晩年、交通問題を告発する映画を撮った。1本は妻・司葉子が起こした人身事故を隠滅しようとする夫・小沢栄太郎の姿を描いた「ひき逃げ」(1966)それと、本作品「乱れ雲」である。

 通産省のエリート官僚・土屋嘉男の妻・司葉子は海外赴任が決定して幸せの絶頂だった。ところがその夫が自動車事故で他界してしまう。はねたのは商社のサラリーマン・加山雄三だった。加山は誠実に謝罪したが、司は彼を憎む。やがて加山雄三は地方へ左遷させられる。加山は裁判で無罪になるが司に慰謝料を送り続けた。司は彼の左遷先に出向いて二度と関わりあいになりたくないと言い放つ。

 司葉子は父の後妻・森光子が切り盛りしている実家の旅館へ帰ることにした。そこへ加山雄三が得意先の接待のために訪れる。

 司葉子が受け取る遺族年金の手続きのシーンや、そそくさと除籍してしまう夫の両親の非情さ(と、司葉子とその姉・草笛光子には映る)が庶民生活の機微を感じさせて成瀬巳喜男らしいところだ。「まだ若い」司葉子がいつまでも過去のしがらみ(と、夫の両親には映る)で寂しい思いをするのは気の毒だという先方の両親の気持ちもまた普通の人間の感情なのだ。

 司葉子の義理の母親に当たる森光子には加東大介という不倫相手がいる。時が次第に「人の死」を遠くへ追いやって行くのをしみじみと司葉子に感じさせる上手い作りである。

 就業中の事故であるにもかかわらず加山の勤めている会社は、通産省との関係の悪化を心配し彼を左遷するわけだが、それでも足りずに前任者が「ノイローゼになって行方不明」になったようなとんでもない国へ加山を赴任させるのだった。加山は憤然と抗議するがしょせんサラリーマン、だまって従うほかない。

 夫を忘れてしまうことへの罪悪感から加山雄三を拒み続けていた司葉子だったが、急病になった加山を看病するうちに彼の一途さにほだされていく。加山雄三と司葉子はとうとう結ばれそうになるが、近くで起こった交通事故の救急車のサイレンが司葉子に夫の事故を思い出させて、二人は結局別れるのであった。

 発展途上国へ赴任が決定した加山雄三が司葉子と一緒にボートに乗る。バスの中でガムやチョコレートをすすめる加山雄三の子供っぽいノリはこの作品中、ただ一度垣間見せた加山の笑顔。ナイーブな演技も捨て難い加山雄三を再認識した。

1996年11月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16