明治大帝御一代記 |
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■公開:1964年 ■制作:大蔵映画 ■監督:大蔵貢 ■助監: ■脚本: ■撮影: ■音楽: ■美術: ■特撮: ■主演:嵐寛寿郎 ■寸評:日本映画史上、出演者の総数日本一はこの作品かもしれない。 |
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新東宝といえば大蔵貢である、明治天皇である。 旧態依然とした作品を制作し経営的にも苦しくなっていた新東宝へ社長として就任した後、大胆な経営方針と動物的カンによる新人スタッフの登用が当たって、「新東宝・大蔵時代」を築いた男。 およそ日本映画史上の「異色作」と呼ばれる作品は彼のプロデュースになるものばかりであると言ってよい。「明治天皇と日露大戦争」でひとやま当てた彼はその後「明治大帝と日清戦争」「明治大帝と乃木大将」と「明治天皇シリーズ」を連発しワンマン社長として見事に会社を食いつぶしついに社長の座を投げ出し、自ら興したのが大蔵映画である。 茶道に裏千家と表千家があるように、日本映画にも邦画大手制作会社が歩んだ「表街道」とは別の「裏街道」が存在した。そこに君臨した男・大蔵貢。ゲテモノ映画から明治天皇まで、とにかく日本映画の歴史の教科書の一ページを飾った異彩のプロデューサー。ちなみに「湯の町エレジー」の近江俊郎は彼の実弟である。さて、前置きが長くなったが映画そのものも物凄く長い。 なぜかというとこれは先に延べた「明治天皇」シリーズの総集編だからだ。明治天皇が誕生したころはまだ「安政の大獄」の頃である。そこから「大政奉還」「会津白虎隊」などの明治維新、日清日露の両戦争の勝利、そして崩御。最後は乃木希典大将夫妻の殉死にいたるまでを忠実に再現する。当時の風俗写真をそのまま再現したような画面に各々のエピソードがテロップで挿入される。 そう、とかく近代史は駆け足でろくに学校で習わないものだからまるで中学の歴史の時間をおさらいしているような雰囲気。それだけでも私は本作品を高く評価する。とりあえず文部省は本作品を授業中に上映しなさい。優れた教材になることうけあいだ。ただしナレーションがまったくの講談調であるのが難点か? まず注目すべきは嵐寛寿郎=明治天皇のなりきりぶりである。動く肖像画、そのもの。さらに驚愕すべきは出演者の(のべ)人数と動員された馬の数である。日露戦争の行軍、崩御の際の行列、などなど数え上げればきりがない、ハリウッド映画も腰抜かすほど程、どこから湧いてくるのかと思うほど出るわ出るわ。 だが残念なことに日露戦争のシーンでは大量の外人(金髪)エキストラを確保できなかったらしく「インチキ外人」がごっそりと目についた。まあつまらないことではあるが。たぶんに絵画的、錦絵的な画面で、特に日本海海戦の東郷元帥の船上シーンは有名な絵とそっくり。群像肖像画だから顔見せの様に並べてある作品なのだがこれを生身の人間で演るところが凄い。東郷元帥が田崎潤(「海底軍艦」の産みの親)。ま、報道写真なんてなかった時代だからしかたないんだけど。 映画の冒頭、自分の顔写真と「この様な素晴しい作品を制作できて光栄です!」というメッセージを掲げた大蔵貢、若き日の「明治天皇」は「匿名・青年」とテロップに出るところがこの映画の尋常でない超右翼的な雰囲気を良く伝えている。そしてラストには日本映画史上、空前絶後の仰天事実が待っていた。そう、真正面から「明治天皇」を堂々描ききった本作品のエンディングテーマ曲は「君が代」なのであった。 国歌をBGMにしちゃった映画なんて他にあるんだろうか?それだけでも一見の(一聴の)価値があるかもね。 (1996年11月11日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16