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非情都市


■公開:1960年

■制作:東宝

■監督:鈴木英夫

■助監:

■脚本:井手雅人

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:三橋達也

■寸評:横井英樹襲撃事件で犯人を匿ったと言われる新聞記者の手記が原作。


 和製007(「国際秘密警察シリーズ」参照)と呼ばれた(か?)天下無敵の善玉・三橋達也のシニカルなキャラクターの魅力が爆発する作品はほかに「天国と地獄」がある。

 大手新聞社の社会部の記者・三橋達也はあくどい取材手口のために自殺者を出してしまう。だが彼はそんなことをまったく意に介さずさらに大きな特ダネを追い求めていた。大企業の社長が来客中に銃で襲撃されという事件が発生した。事件の背後に大がかりな企業買収の遺恨があると睨んだ三橋達也はヒットマンの所在を掴むべく、やくざ・平田昭彦に接近する。

 気質に重傷を負わせたため警察の追及が厳しくなり、平田に襲撃を依頼した「財界の大物」がヒットマンを持て余しぎみになって困っていた。警察では襲撃犯人を大島組の幹部・中丸忠雄であると断定していた。三橋は平田から独占取材をさせてやるから中丸を匿うように頼まれる。最初は乗り気でなかった三橋だが、もちまえの記者根性がムラムラと燃え上がり承諾する。

 三橋は恋人・司葉子に、事件の背景を探るべく協力を依頼する。彼女は単身、大手金融業者の元へ出向いて色々と探りを入れる。司はこの事件が三橋の新聞社の社長をも巻き込むような想像以上の巨大な権力によって引き起こされたことを知り、三橋に事件から手を引くように言う。危険を顧みず恋人のために情報を聞き出してきた司葉子の心配などこれっぽっちもしてやらない三橋達也。彼は情報を聞き出すために司が相手と「寝た」のではないかとさえ思っているサイテー野郎なのだった。

 三橋の新聞社には当然、圧力がかかり彼の記事は掲載されない。怒った三橋達也は中丸を地方へ逃がして自首直前の記事を特ダネにすることを計画する。だが警察もバカではないので、三橋と平田との関係を割りだし甲府へ逃げた中丸を逮捕する。犯人隠避の罪で逮捕された三橋は恋人にも会社にも見捨てられるのだった。

 警察に任意同行を求められ取り調べ室で中丸忠雄と対面させられ絶体絶命になった三橋はクソ度胸で中丸とあらかじめ口裏をあわせておいた芝居を打って難を逃れる。やくざの中丸忠雄に「やくざを脅迫するなんていい度胸だ」と褒められた三橋達也だがさすがに神経の図太い彼もこの時ばかりは手が震えるのだった。

 三橋達也は元々ベビーフェイスであるがこの作品のように非情で意地汚なくて根性の曲がったキャラクターを演らせると上手い人だ。おなじ鈴木英夫監督の「新聞記者」ものでは石原慎太郎が主演した「危険な英雄」があってそっちのほうが有名だが、主人公の悪辣さとタフさ(と演技力)においては本作品のほうが強烈である。

 きっかけとなった「社長襲撃事件」は安藤組が横井英樹を撃った実際の事件が元になっている。原作は当時、主犯を(本当に)匿ったのではないかと言われた実在の新聞記者・三田和夫氏の手記に基づいている。

 ところで劇中、逃走中の中丸忠雄の人着(人相着衣、の略)が「慎太郎刈り」と報告される。先述した石原慎太郎は「危険な〜」当時(1957年)は東宝の学芸部員だったが本作品の頃にはそのヘアスタイルがファッションになるほどの有名作家になっていたのであった。人間、先のことは分からないものである。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16