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彼奴(きゃつ)を逃がすな


■公開:1956年

■制作:東宝

■監督:鈴木英夫

■助監:

■脚本:村田武雄

■撮影:

■音楽:

■美術:

■特撮:

■主演:木村功

■寸評:黒澤明組の俳優が出演する。


 「映画は監督のもの」であることは間違いないが、見るほうとしては俳優にひっぱられてしまうのも事実。この映画が「黒澤明タッチ」なのだとしたら、それは出演者に因るところが大。

 失職中の木村功は身重の妻・津島恵子が営む洋裁店の一角でラジオの修理をしている。ある晩、一人で店に残っていた木村は殺人事件の容疑者・堺佐千夫を目撃してしまう。相手にも顔を見られている木村功は警察に行こうかと思うが妻が止めた。

 犯人はさらに仲間と仲間の乗っていたタクシーの運転手・佐田豊をピストルで撃ち殺した。木村は関わりあいになりたくないと思っていたが、主任刑事・志村喬に執拗に強力を依頼されイヤイヤ犯人のモンタージュ写真の作成に協力する。新聞に大々的に発表された写真のおかげで彼と彼の妻にとっては見えざる犯人の「復讐」に怯える生活が始まる。

 目撃したのは二人組みの片方だけだったというのがミソ。主犯・宮口精二が客を装ってやって来る。木村と妻がもう少しで撃たれそうになったとき、木村はとっさの機転で停電を起こす。慌てた宮口が拳銃を乱射し表で張り込んでいた刑事達と銃撃戦になる。堺佐千夫は射殺され、宮口は逮捕された。

 事件に関わって犯人達に付け狙われるのを恐れた津島恵子がヒステリックに木村功の警察行きを反対する。わざと残虐な手口で反抗を重ねプレッシャーをかける犯人達。犯人逮捕に燃える警察。それらが互いに絡み合って哀れな目撃者を追い詰める。店に侵入した犯人と木村の虚々実々のかけひきは、個々のトラップは幼稚ではあるが、木村功の絶妙な「小心演技」でおもわず引き込まれる。

 木村と津島の生活空間や警察署での取り調べの様子などはまるでドキュメンタリーでも見ているような克明さである。一見偶然の積み重ねに見えてそれがすべて後の展開の伏線となる無駄の無さがシャープで小気味良い。まるで将棋の駒をたくみに操る棋士のようでもあるが、監督は野球が好きなようだから、野球チームの監督の如くである言ったほうがいいかも。

 事件の巻添えを喰うタクシーの運転手・佐田豊。しかししょっちゅう「運転手」演る人だなあ。この作品のほかに「天国と地獄」「美女と液体人間」でも運転手として事件のとばっちりを被っていた。

 映画のキーポイントとなるのが轟音を発して頭上(高架)を通過する貨物列車。全てのきっかけとなる拳銃による殺人事件もこの「騒音」を利用して行われる。なんとぴったりのロケ場所があったものだと感心したがどうやら合成のようだ。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16