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透明人間と蠅男


■公開:1957年

■制作:大映

■企画:永田秀雅(現:ジュニアラッパ)

■監督:村山三男

■脚本:高岩肇

■撮影:村井博

■音楽:大久保徳二郎

■美術:後藤岱二郎

■録音:飛田喜美雄

■クリプター:的場徹

■照明:米山勇

■主演:品川隆二

■寸評:無名時代の田宮二郎が出てる。


旅客機のトイレで男が殺されます。完全な密室、スチュワーデス(現:キャビンアテンダント)をはじめ、犯人の目撃者はゼロ。たまたま乗り合わせていた早川博士・南部章三は心臓に持病を抱えているので薬が手放せません。この事件の捜査にあたったのが敏腕そうな若林課長・北原義郎。早川博士の弟子であり、かつ、一人娘の章子・叶順子の婚約者でもある月岡博士・品川隆二は病気の恩師を心配して空港へ。そこで、若林と月岡は大学の同期であったことが偶然にも判明するのでした。

刑事と科学者がたまたま大学の同期、故に民間人のくせに事件捜査に深く協力することになるというのは、日本のミステリー系SF映画の常套です。

完全な密室や、衆人環視の状況だったりするのに犯人の目撃者がいないという連続殺人事件の解決に頭を悩ませていた若林は月岡に相談。「こんなこと透明人間じゃないと無理っすよね」と冗談飛ばしたのに、複雑な表情を浮かべた月岡を若林は見逃しません。二人の博士とカッコいい助手の杉本クン・鶴見丈二は、早川博士の自宅の庭に胡散臭い研究施設(マット画)をこしらえて物体を透明にする光線の研究をしていたのでした。

本当は宇宙線の研究のための施設だったのですが、これまた偶然に発見した副産物のほうに杉本クンが熱中しているで、月岡は彼を諌めたりしますが、結局のところ、マニアックな杉本クンのおかげで事件は解決方向へ、そして新たな犠牲者を出してしまうのでした。

捜査チームで最も身体が大きく、芝居の下手糞な葉山刑事・浜口喜博(ブルーバ)は偶然、皇居のお堀端で若い女性が背中に深い傷を負って土手から転落する現場に遭遇。瀕死の彼女が指差した空には不気味な蠅の羽音がするのでした。女性は貸しビルオーナーの楠木・伊沢一郎の秘書でした。事件の捜査が進むと、被害者のうち何人かは旧陸軍の軍人や軍属だった時代に同じ南方の島にいたことが確認されます。楠木もその一人でした。

楠木は一人だけ戦犯として島に残って重労働をさせられた恨みをかつての仲間に晴らしていたのでした。ターゲットの一人はキャバレーのオーナーで、殺された男達と関係があったため、葉山刑事が潜入捜査を敢行しますが、挙動不審だったためあっさりと正体がバレます。バーテンの羽島・杉田康は腕っぷしが強くて二枚目で、踊り子で歌手の美恵子・毛利郁子とイイ仲らしいです。

羽島の後をつけた葉山刑事の目の前でまたもや殺人事件発生。現場にはまたもや蠅の羽音が。楠木の事務所に殺された羽島のバーテン仲間の山田・中条静夫が訪ねてきます。彼は楠木に薬物をねだりに来たのでした。その薬物というのが人間をミクロマンのようにサイズダウンすることができるのですが、依存性が強いらしく、揮発性の薬物を吸い込むとかなりのりトリップ状態にもなります。山田は楠木に命じられて、かつての裏切り者を暗殺していたのでしたが、だんだんと殺人が止められなくなり、ついでに秘書とか、羽島とかを殺していたのでした。薬物はヒロポンと同様にアンプルで支給されます。アンプル欲しさに山田はまたもや殺人を命じられ、実行するのでした。

山田はセクシーダンサーの美恵子に惚れていましたが、たぶん片思いなのでした。にもかかわらず、自分を裏切ったと思い込んだ山田は蠅男に変身。あられもない姿で休憩中の恵美子のボインによじ登る山田ハエ、バタフライを装着する彼女を真下からかぶりつき状態の山田ハエ、満足した彼は恵美子を殺してしまいます。

事件がSFチックになってきて、普通だったら笑い飛ばされるところですが、同僚を殺されると正体失くすのが警察の常。葉山刑事を殺された警視庁は、総監・見明凡太朗の命令により透明光線の採用を決定。しかし、人体実験は未実施だったので常識のある月岡は反対しますが、探偵小説マニアの杉本クンは身をもって実験してしまいます。紫外線に強く当っていた顔面や手先に対しては有効ではないため、顔と手だけになった半透明人間の杉本クン、お食事はテグスで吊ったバナナの皮を器用に剥いたりなんかして、意外と楽しそう。

透明光線の存在を知った楠木は山田に光線装置の強奪を命じます。蠅男になった山田ハエは通風孔から実験施設に潜入し、早川博士と杉本クンを殺害。しかし装置は持ち出せませんでした。恩師と後輩の復讐に燃えた月岡は還元光線が完成していない(はず)なのに、自ら透明人間になって若林に協力します。再び実験室に忍び込んだ山田ハエは罠にかかって薬品に全身を焼かれてしまうのでした。ここで、犯人が身体を極小サイズにして犯行を繰り返していたことが判明します。

山田を失った楠木は警察の追及が身辺に及ぶや否や自ら蠅男に変身。透明光線装置を奪うために首都圏の交通機関を麻痺させ、多数の犠牲者を出す大爆破事件を起こすのでした。楠木は警視庁を脅迫。月岡、若林、そして警官隊の見守る中で、透明光線装置を奪ったかに見えた楠木を追い詰めたのは、父親の仇討ちに燃えていたお嬢さんなのでした。楠木はビルの屋上から転落死、月岡とお嬢さんは大勢の犠牲者を出したにも関わらず、事件の解決を喜びつつラブラブで、殺人事件のあったお堀端をルンルン歩いていくのでした。

ピアノ線で吊ってハエ男の芝居をするのはかなり恥ずかしい状況ですが、透明人間のほうも似たようなモノです。見えない相手と格闘する伊沢一郎、クソ真面目に荒唐無稽なセリフを吐く北原嘉郎、後年は二人とも時代劇の悪代官が持ち役になりましたが、当時はまだ若く、大変にエネルギッシュです。主役の品川隆二の影がなんとなく薄いのはやる気の無さの表れでしょうか?にしても、中条静夫のラリパッパは見ていて痛すぎますが、大部屋時代の彼の、妙に一生懸命な感じがシリアルキラーなのに健気に見えてしまうから不思議です。

この映画は子供が観るもんじゃありません。毛利郁子の必然性のない着替えシーンは、あきらかに男子の下半身を直撃してしまいます。だって生着替えだし、バスタオル巻いてたってことは下はスッポンポンだったわけだし、それをニタニタ眺めているおっさん、ハエだけど。羽も生えてないのになんで羽音がするのか?そもそもなんで飛べるのか?そこが分からないんですが、蠅男だから、ということにしておきましょう(何も解決しませんが)。

いつもは退廃的な叶順子がただのお嬢様かと思いきや、やっぱやることは大胆でした。「実は還元光線は完成していたんだよ」の一言で払拭される不安って一体・・で、その光線使わないのに透明状態が解除されるって?と、そんなツッコミをするのも馬鹿馬鹿しいくらいの、脳天気なSF映画でした。

冒頭、殺人事件が発生する旅客機の乗客(上手)、事情聴取のために別室に残される乗客、キャバレーで毛利郁子がセクシーダンスしてたときお姉ちゃんの肩を抱こうとして飲み物こぼした客、以上3シーンで無名時代の田宮二郎(クレジットなし、デビュー当時は柴田吾郎)の姿が確認できます。ファンの方はお見逃しのなきように。

2009年01月25日

【追記】

2009/01/25:全文を改定しました。

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-01-25