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脱獄囚


■公開:1957年

■制作:東宝

■監督:鈴木英夫

■助監:

■脚本:村田武雄

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:池部良

■寸評:


 佐藤允の脱獄囚モノはもう1本「吼えろ脱獄囚」(1962)というのがある。「吼えろ〜」は無実の罪で投獄された脱獄囚の復讐劇だったが、本作品は自分を捕らえた刑事に対する陰湿な報復を描く。

 小菅の刑務所を脱獄した三人の囚人。その中に強盗殺人犯の佐藤允がいた。彼を逮捕した警部・池部良が捜索を開始する。やがて佐藤の裁判を担当した検事の夫人が拳銃で殺害される。佐藤允は自分の女房の眼前で逮捕されており、そのとき妻は妊娠していた。その直後、その妻が鉄道自殺したことは佐藤には伏せられていたのだが、脱獄直前に本人の知るところとなったことが判明する。

 脱獄の目的は自分を逮捕し女房を死に追いやった「奴ら」への復讐なのだった。

 佐藤允は「和製リチャード・ウイドマーク」と呼ばれていたそうだが、実に良く似ている。腹を減らした野良犬というか、ぜったい夜七時以降に外出すると職質食らうタイプだ。ただの乱暴なバカではなく、なかなかの知能犯でもあり、ギラギラとした復讐心をソフトな物腰に隠して巧みに池部良の身辺に接近する。

 池部は自分の妻が標的であると知ったが、上司・藤田進に自分の妻を囮とすることを言上する。佐藤は池部の自宅の対面の家に侵入し、娘と母親を人質にとっていた。そうとは知らない池部の妻・草笛光子は佐藤の目前であわやという場面に幾度か晒されるがとりあえず池部の帰宅までは無事であった。

 張り込みをしていた刑事・土屋嘉男が佐藤に捕えられてしまう。なんとか危機を池部良に知らせようと対面の家の母娘がいろいろと試みるが拳銃で脅されているので上手く行かない。

 監督のじらし作戦にハラハラ、イライラする観客。決死の覚悟で声を上げた土屋に佐藤が発砲したため佐藤の所在がバレた。草笛光子と池部良の連携プレーで母娘はピンチを脱出したが、灯りの消えた池部の家に草笛光子と佐藤允が取り残された。周囲を池部と警官隊が囲む。下手に刺激すれば捨鉢になった佐藤が死に物狂いで草笛を殺害するかもしれないと緊張する池部。

 暗がりで草笛を探す佐藤は「暗くなるまで待って」のアラン・アーキンのようだ。そうか、この家には冷蔵庫ないのか?え?昔の冷蔵庫はドアあけてもランプはつかないの?どうなんでしょうねえ。とにかく昔の練馬区の関町のあたりは街灯もあまりなく、薄暗い星の良く見える郊外だったために、佐藤は息を殺してせまい家のすみっこに隠れている草笛を全然発見できないのだった。

 とうとう追い詰められた佐藤が拳銃を捨てたフリをして投降するが最後の最後で池部を撃とうとして逆に射殺される。刑事としての職業上の義務感と妻への愛情に板ばさみになる池部良だったが、やはりこの事件の最大の功労者は妻の草笛光子である。「狙われていると思うから怖いんだ、自分が犯人を狙っているんだと思うと度胸がすわるよ」と市井の人である妻を説得する池部良。おばけ屋敷で「怖くなくなる方法」として昔、誰かに教わったのと同じだった。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-08-17