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雪之丞変化


■公開:1963年

■制作:大映

■監督:市川崑

■助監:

■脚本:伊藤大輔、衣笠貞之助(シナリオ化:和田夏十)

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:長谷川一夫

■寸評:情念タップリの伝奇的時代劇映画。


 筆者は戦前の長谷川一夫の映画をほんの少ししか観たことが無いが、あまりにも綺麗なので驚いた。

 1935年、長谷川一夫がまだ林長二郎だったころ「雪之丞変化」の第一作は制作された。脚色が伊藤大輔で監督が衣笠貞之助。本作品はリメイク版ということになる。前作では27歳だった長谷川一夫も本作品が制作された当時はすでに55歳。すでに地位も名声も貫祿も脂身もたっぷりであったが、芸術品といわれた「流し目」にはどっこいまだまだ衰えぬゾクゾクするような色気があった。

 長谷川一夫は商家の息子であったが両親は商売敵の仕掛けた陰謀にはまって心中してしまった。

 無一文になって孤児となった彼は歌舞伎役者・市川中車に引き取られた。彼の両親に恩義があり、彼が落とし込まれた不幸な境遇に同情した中車は芸道の修行とともにきたるべき仇討ちに備えて、長谷川に剣術も学ばせる。免許皆伝の腕前となり劇団の花形役者となった長谷川一夫は雪之丞と言う芸名を名乗り、今では大店の主人となった仇敵たちに巧みに接近し、欲に絡んだニセ情報で彼等を仲間割れに追い込んで死に至らしめてゆく。

 女形の雪之丞に惚れ込む女スリ・山本富士子、山本の相棒の昼太郎・市川雷蔵、仇敵のナンバーワンが中村雁治郎(先代)、中村の娘で純粋に雪之丞を愛し死んでいく薄幸の娘が若尾文子、これに男儀溢れる盗賊の闇太郎・長谷川一夫の二役が絡む。

 なんといっても見どころは艶やかな長谷川一夫の女形である。だが寄る年波というやつか、水もしたたると言うよりは大分「脂肪」がしたたってしまったようだ。雪之丞に恋焦がれる若尾文子の心情がイマイチ納得いかないわけだね。熟年とキャピキャピのお嬢様の恋愛ってのがどうも、、。たしかに長谷川一夫の体中から沸き上がってくるような迫力ある「美しさと妖しさ」は希有のものだし、しぐさの可憐さに息をのむこともしばしばではあるのだが。

 復讐に燃える雪之丞の独白をライトを落として暗闇の中に目だけをボーっと浮き上がらせたり、壁をあまり機敏でない身のこなしで垂直登坂する闇太郎のマンガチックな描写が、ちょっとムード壊した様な気がする。もっと長谷川一夫の「美の世界」をじっくり堪能させてほしかった。それだけでも十二分に「保つ」役者なのだから。

 剣のライバル・船越英二と心ならずも対決する雪之丞。女優の立ち回りというのはおよそドンくさくて見るべきものは何もない。かといっていいかげんなスタントを使うと、今度は足の捌き(ヒザが不用意に思い切り開く様)が男丸出しで下品のきわまりなくて見苦しい。その点、女形の立ち回りというのはなかなか良い。奇麗な衣装がまろやかで且つパワフルな躍動感に揺れてとても美しいし、殺陣の「型」も要所々々でピタリと決まってすごくかっこいい。

 ついに中村雁治郎を含む仇全員を殺害し復讐を終えた雪之丞は蓄電する。どこまでも続くススキの原に後ろ姿の雪之丞が現われては消えしながら次第に遠くなって行く。シンプルなセットだがなかなか余韻を残す幕切れだ。大映はセットの「芝居」がいつも見事であるが今回も「作り物の美」が随所に見られて素晴しかった。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16