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青い芽


■公開:1954年

■制作:東宝

■監督:鈴木英夫

■助監:

■脚本:松山善三

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:雪村いづみ

■寸評:「ちんぴら」俳優・中山豊はいつも絶好調!


 都会的なセンスが身上の東宝の専属俳優の中に在って、常に鉄砲玉のような役柄ばかり請け負った人がいる。彼の名前は中山豊。サラリーマン然とした芯の役者をぶっちぎり、「電送人間」に身包み剥がされ、「殺人狂時代」では精神病院の患者を迫真の演技で表現。出場の多少にかかわらない体当たりな活躍は『東宝の川谷拓三』(最大級の誉め言葉)と呼ぶに相応しい。

 大学の野球部の試合中、口汚ない野次を飛ばしたヨタ学生達(中山豊、大前亘、岩本弘司ら)を叱り飛ばしたのは、女子学生・雪村いづみ。彼女の恋人は野球部のエース・山田真二。雪村は乾物屋の娘でコーラス部に所属している。頭は猿なみで執念深さだけは人一倍強い中山豊が、ボートに乗って遊んでいた二人にカツアゲをかます。だが山田真二の「線路の石攻撃」に遭いスゴスゴと退散する。

 物語はとても他愛ないものだが、雪村の両親(清川虹子藤原釜足、トンビがタカとはこの事か)が17歳になった娘の結婚話にうろたえる姿などが大変丁寧に描かれる。雪村の家の調度なども克明で丁寧。心理描写も台詞で安易に説明してしまわずに、きちんと絵で隠喩的に表現されている。

 先輩の結婚式に聖歌隊として参加した雪村が、性急な結婚願望を棄ててもっと青春をエインジョイしたいと山田真二に打ち明けるシーン。神宮球場近辺、山田は野球の試合は中止になったが約束をした雪村を無人の球場で待っている。雪村は両親に山田と結婚したいと言ったことや、やっぱりもっといろんな経験を積みたいから結婚は止めたことなどを素直に話す。歩いていく二人。山田のバッグから野球のボールがコロコロと転がり出る。

 山田も雪村の決心に同意して二人はもっと仲良くなる。ボールは二人に残された様々な可能性の暗示に見える。楽しいことも嫌なこともみな経験なのだ、と少々汚れたボールは語っているようだ。そしてボールが落ちたことに気がつかない二人。二人にあるのは輝かしい未来なのだということか。

 作品そのものも1時間弱の小品。山田のチームメイトの石原忠(現・佐原健二)や司葉子宝田明がびっくりするほど若い。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16