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上役 下役 ご同役


■公開:1959年

■制作:東宝

■監督:本多猪四郎

■助監:

■脚本:沢村勉

■撮影:

■音楽:

■美術:

■主演:加東大介

■寸評:久保明と久保賢(後の山内賢)は本物の兄弟である。


 映画の客の大半が勤め人だった頃、東宝のサラリーマン映画と言うのは客の共感を最も得やすい題材だったと思われる。とにかく忠臣蔵から清水次郎長までなんでもサラリーマンにしてしまったのだから凄いじゃないか。

 繊維メーカーの中間管理職・加東大介は妻に先立たれている。彼は真面目一徹で融通が効かない、曲がったことが大嫌いな課長サン。娘・水野久美は父親の務めている会社の電話交換手。家には長男・久保賢(後・山内賢)のほかに甥・瀬木俊一が居候中。

 要領が良かった加東の部下・田島義文は今では重役になっている。甥の同期生で娘の彼氏・久保明は硬派な青年。久保は就職して加東大介の部下になる。

 若いタレントのマネージャーになった瀬木は生活が派手になり加東大介の会社からギャランティを巻上げることしか考えなくなる。真面目な久保明と名前(役名)が同じで、その日から名字でなく名前のほうを呼ばれるようになった了見の狭い先輩社員が、久保に横領の罪を着せようとするが失敗。社長の息子が水野久美に一目惚れしたために、政略結婚かと冷やかされた加東大介だが、娘と久保明の相思相愛の仲を知って毅然と縁談を断わる。

 大体、内勤事務系のサラリーマンなんてえのは、毎日が平々凡々たるものだから、しょっぱいヤローが多い。久保を罠にはめようとした奴なんざただ単に「同姓の後輩のおかげで名字ではなく珍しい名前(かねもち、と言う)のほうで呼ばれることになったのが面白くない」ってしょーもない理由で柄の悪い友人・岩本弘司と結託して詐欺を働くのである。

 重役のお歳暮&お中元処理方法というのもドキリとさせられる様な手口。田島義文の妻・久慈あさみは、のし紙がついたまんまのそれらを酒屋へ買い取らせる。その値踏みをするときのドライな感覚が現代とまったく同様なのが笑える。まったくサラリーマン社会なんてのは進歩がないんだね。

 古い日本映画を楽しむポイントとして制作当時の物価を現代の物の価値に置き換えてみるというのがあると思う。水野久美と久保明が喫茶店で飲むコヒーが¥100だとか、タクシーの最低料金が¥350だとか。加東大介は息子の久保(山内)賢に腕時計をねだられるがそれが¥3000する。これがとても高価な買い物だとして描写される。この映画が制作されたときは、まだ国内ではコンシューマ家電という産業分野が未発達であったことが良く分かる。

 タレントにたかって有頂天になっていた息子は地道な生活を送る加東大介を馬鹿にしていたが、案の定、あっさりタレントに捨てられてしまう。サラリーマンなんてつまらない人生を送るのは嫌だと広言していた甥だが、無一文になって加東の家に臆面もなく戻ってくる。が、断固、突っぱねる加東大介。実に清々しいぞ。まるで「蟻とキリギリス」を彷彿とさせる光景だ。

 加東大介の末娘は親に内緒で就職活動をする。娘は面接官になぜサラリーマンが良いと思うか?と尋ねられ「月給五万円のサラリーをもらうということは一千万円の定期預金を持っているのと同様だ」と答える。会社に就職したい理由は?「おムコさんを見つけるためです」と堂々と回答する娘。売り手市場だった当時の就職事情(娘は高卒)、高金利時代、大盛況の会社主催の運動会、そういう時代。

1996年10月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16